第66話 選帝侯会議⑥

 2日目の午後は、ドンファン・テレストリアさん対ウルリッヒさんだった。



 ドンファンさんは、正統的な戦い方をするが、ウルリッヒさんは、なんとも変則的な戦い方だった。



 両手にレイピアのように細い剣を持ち、鎧の上に全身を隠すマントを羽織はおる。この剣は、パンツァーシュテッヒャーというらしい。鎧通しの剣というのだそうだ。ちなみにランド王国では、エストックといい、世界的には、その名で良く知られている。


 ウルリッヒさんは、出てきた時は、とても背の低い男なのだと思ったのだが、戦い始めると、とても間合いが長く、一歩踏み込み、手を伸ばしてパンツァーシュテッヒャーで、間合いを縮め突く。


 よく見ると、手足がとても長く、最初はかがんで歩いて、マントの中に隠していたようだ。


 手足が長く、ヒョロっとした体型のようだった。その長い手足をマントで隠すと、相手は、動きが読みづらく、間合いも取りにくい。



 この変則的な戦い方で、先は丸められているものの、パンツァーシュテッヒャーで鎧の隙間を突かれ続け、ドンファンさんは、徐々に動きがにぶり、最終的には突然倒れた。見ていた女性の大きな悲鳴があがる。



「さすが怪僧だね~。本当に怪しい戦い方だ」


 という僕の言葉に、アンディが、


「あれは戦いにくいっすね。間合いが分かりにくいっすし、マントで隠れてるっと、どう動くか分かりにくいっすから」


「ああ、特にアンディ、お前は目が良いから特にだろう」


 と、ガルブハルトが言う。


「そうっすね。逆に、隊長は気にしなさそうっすね」


「そうだな」


 と、フルーラ。本当にフルーラ分かってる?



 そして、最後は、美麗騎士びれいきしこと、ウェルサリスさんだが、本当に戦い方が、派手で芝居がかった戦いだった。両手に剣を持ち、舞うように戦う。


 登場から、女性の黄色い声援に包まれる。女性は、そんなに多くないと思うのだけど。諸侯の奥様や、侍女じじょ、そして数少ない女性騎士くらいだろうけど。本当に、よく響くな~。



 そして、戦いが始まると、本当に芝居のような戦いだった。相手に追いつめられてからの逆転勝利だったが。あれは……。



「あれは、わざとだよね」


 僕が聞くと、


「ええ、そうでしょうな。まあ、実力差がかなりあったから出来た、お遊びですな」


 と、ガルブハルト。


「そうだよね〜」



 こうして、2日目は終わった。明日は、いよいよフルーラと、アンディの試合だ。まあ、2試合だけなので、午後からなのがありがたい。


「フルーラ、アンディ、明日は頑張ってね」


「はい」


「ういっす」





 そして、3日目の試合が始まる。


「アンディ〜! 頑張れ〜!」


 アンディが、入場口から登場する。顔がカッタリィナ〜って顔をしているが、ヘルムを小脇に抱え歩いていると、ザワザワとざわめきが起こる。


「あの方、格好良くないですか?」


「そうね」


 とか、


「まあ、整った顔立ちね~」


「本当に、ああいうのを甘いマスクっていうのね〜」


 とか、言っているんだろうな~?


 あくまで、僕の想像だよ。



 そして、歓声というのか、悲鳴というのか。女性の方々から、応援の言葉が飛ぶ。


「アンディ様〜、こっち向いて〜」


「アンディ様〜、格好良い〜」


 はいはい。アンディは、格好良いですよ、イケメンですよ。ふん。うらめしい〜。じゃないや、羨ましい〜。


 すると、やる気になったのか、アンディの顔がキリッとしまり、歓声に応える。



 さて、僕は反対側の入場口を見る。何だっけ?


「歩く城塞だっけ?」


「違いますよ、グーテル。戦う城塞アンドレアスですよ」


 と、トンダルが教えてくれた。



 そして、アンドレアスさんが出てきた。


「トンダル、あれ、人間?」


「多分」


 人は、驚くと言葉が、簡潔になるようだ。



 入場口も結構な高さがあるのだが、そこを頭を下げて、くぐるように出てきた。大きいと思っていたガルブハルトでさえ、普通に入場したのにだ。



 僕は、素早く入場口の高さから、おおよその身長を見る。


「2m20cmくらいは、あるね」


「ええ」


 僕は、こんな大きい人を見たことがない。僕が見た中で一番大きいのは、ガルブハルト。それをはるかに超える大きさだった。


 のっしのっしという感じで進む。すでに、ヘルムをかぶっているので、顔は見えない。そして、両手に大剣を持っている。片手で大剣を操るようだ。



 女性の方々の悲鳴が、聞こえる。おそらくアンディが、倒される事を心配しているのだろうな。



 そして、二人が闘技場に立つ。う〜ん、見た目の大きさの違いが凄い。アンディだって、決して身長が低いわけではない。だけど、見た目2倍くらい大きさに差があるように見えた。


 まあ、実際、例えばの話だが、身長差に1.26倍の差があって、肩幅1.26倍、胸の厚み1.26倍の差があれば、体積でおよそ2倍大きいのだけれど。



 体格が大きい。これは、最大パワーも大きいということだ。これで愚鈍ぐどんであれば、そのパワーも無駄になるのだが。そんな人物がこの戦いに出てくるわけはない。アンディが一発でも直撃を受ければ、まあ、負けることになるだろう。さて、アンディはどう戦うかな?



 アンディは盾を置き、予備で持っていた剣を抜き左手に持つ。どうやら戦い方を変えたようだった。


「確かに、盾は意味をなさんな」


 と、ガルブハルト。


 アンドレアスさんの攻撃を盾で受けたら、だめということか?



「はじめ!」


 リチャードさんの声が響く。と、その瞬間アンドレアスさんが動く。大きく一歩前進し、間合いをつめると両手の大剣を振りかぶり、振り下ろす。


 が、アンディは、その剣が振り下ろされる前に、素早く踏み込みアンドレアスさんのふところに飛び込むと、アンドレアスさんの左側に駆け抜けつつ、双剣そうけんでアンドレアスさんの左足、ひざ辺りを叩く、激しく火花が飛び、一瞬、アンドレアスさんがぐらつく。


 一瞬の攻防だった。大きな歓声があがる。



 二人は、再び間合いをとって、向き合う。


 今度は、アンドレアスさんも警戒してか、動かない。右手の大剣をアンディに向けてかざすと共に、左手の大剣は、腕を縮めて、胸部をガードするように置く。



 アンディは、飛び込む隙きを探すように左右に動く。こちらから見ていると、アンドレアスさんを中心に円運動しているように見えた。



 しばらくその状態が続くが、アンドレアスさんがれて、アンディに向けて一歩踏み込み、右手の大剣を振り下ろす。すると、アンディが、またアンドレアスさんの懐に飛び込む。


 これを待っていたアンドレアスさんが、左手の大剣をアンディに向けて振るうが、もうそこにアンディはおらず。アンドレアスさんの、左足の膝辺りに激しく火花が飛び散るのだけが見える。



「速すぎて良く見えないよ」


「ええ」


 僕の言葉に、トンダルが同意する。



「本当に速いですよね。無駄な動きが無くて、そして速いから。だけど、もっと速く動けますよ、アンディは」


「ああ、本当に速い。目が良くて、身体能力に優れ、技術もある。後は、性格も悪い」


 フルーラの言葉に、ガルブハルトが同意する。しかし、性格が悪いって関係あるのかな?



 その後も、似たような攻防が続き、ついにアンドレアスさんの左足の膝が悲鳴をあげた。アンドレアスさんが、ガクッと膝をつく。



 すると、アンディが、一瞬で走り寄ると、両手の剣で、アンドレアスさんの両手の手首を激しく斬りつける。


「ウッ」


 アンドレアスさんが、うめく。と、ほぼ同時に、アンドレアスさんの大剣が空高く飛び上がり闘技場に落ちる。アンディが、剣でからめ取って投げたのだ。


「ま、まいった」


 アンディの双剣が、アンドレアスさんの首筋に当てられていた。


「勝者アンディ!」


「キャッーーーーーー!」


 その瞬間、大きな悲鳴があがる。僕達も、歓声をあげるが、それが消されるような勢いだった。



 アンドレアスさんが、ヘルムを脱ぐ。そこから、とても優しそうな顔がのぞく。抜けるように白い肌と、オレンジ色の髪が見えた。マインハウス神聖国にはあまりいないだろう、西方の島の民の特徴だった。マリル人と言う。


 元々は僕達、マインラント系と先祖を同じくしていたが、混血が進んだ僕達は、金髪が多いし、肌もあそこまで白くは無い。



「いや〜、負けた負けた。完敗です、アンディ殿」


「うっす。じゃなくて、ありがとうございます。アンドレアスさんも、見事だったっす」


「ガハハハ。そうですか。また、やりましょう」



 そう言うと、アンドレアスさんは左足を引きずりながら去っていった。アンディも、歓声に応えながら、退場する。さて、最後は、フルーラだ。


 ん? そう言えば、フルーラ、まだ、ここに居たような?



 僕は、後ろを振り返る。すると、そこには、激しく長剣を振るう、フルーラと、それをあきれたように見るガルブハルトがいた。


「フルーラ、あまり動くと試合前に疲れるぞ」


「はい! ですが、体を動かしていないと、落ち着かなくて!」



 ブン、ブーン、ブン。


 部屋に、剣が空気を切る音が響く。


「それよりも、そろそろ行かないといけないんじゃない?」


「はい、ですが、休憩時間もあります。アンディが帰って来てから、向かいます」


「そう」


 僕の言葉に、フルーラがそう返す。アンディの勝利をねぎらってから、行くのかと、思っていたのだが……。



「ただいまっす」


 アンディが、帰ってきた。すると、何も言わずにフルーラが出て行く。その目は、瞳孔どうこうが開き、狂人きょうじnのようだった。


「隊長、どうしたんすか?」


「さあ?」


 どうやら、フルーラは、アンディを労うためではなく、護衛の引き継ぎとして、業務として残っていたようだ。だが、


「君達いるのにね」


「はい」


 部屋にいた、5名の護衛騎士がうなずく。どうやら、目に入っていないようだった。


 まあ、それよりもだ。


「アンディ、御苦労様。完勝だったね」


 僕が、そう言うと、ガルブハルトやトンダルも、アンディの戦いをめる。


「っす。ですけど、完勝ではないっすよ。あのおっさん強かったす」


 だそうだ。アンディの鎧に少し剣がかすったそうだ。そこの部分の金属は光沢こうたくを帯びていた。掠っただけで、表明を少し削ぎ落としたようだ。怖い怖い。

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