第29話 奈々5
私は思う、この手紙がいつかずっと先にアッ君に届けば良いと。でも届かない。私がどれだけ思ってもアッ君の心は私を向かない。アッ君はアッ君の気持ちを通してしか私を見ない。私にはわかる、最後の最後に悔しい思いをするのは私。それが想像出来るから私は今の私を我慢することにする。アッ君も私を我慢することになるはず、キミタチの気持ちは成長が遅いんだよ。私の胸が萎んだ頃にアッ君はざらつきだすんだ。でも私が冷たいんじゃないんだよ、私の心にはキミタチが想像出来ない位沢山の部屋があるんだ。アッ君はそのなかの入り組んだ奥の奥の方の、温かい小さな小さな部屋で私が思い描いた通りの、アッ君と私が同調してシェアしていた通りのアッ君のまま、ただただ劣化していくんだ。でも光栄に思ってよ。いくら沢山の部屋って言ったって、そこにずっと居させてあげるんだから。永住権だよ。私はこれは愛だと思うの。私がアッ君を思って、アッ君が私を思って、私達は同じイメージをつくりあげたの。瑣末な話題や拙い会話をせっせと積み上げて。でも私はかわろうとしている。アッ君みたいに漠然と時間を浪費するわけにはいかない。もしもずっと先に、私が行きすぎて、でもアッ君が追いつけて、出来るだけ同じ景色でもう一度向かい合えたなら、わたしは、アッ君を全面的に無条件に受け入れちゃうかもしれない。でもその時、アッ君はアッ君自身の視覚で私を見てくれるかな…、隔てた時間がそんなふうにみんなよくしてくれるかな。…出来過ぎだわ、だから、私は、今ここでアッ君を封印するの。秋穂、苦しみなさい。そして苦しめることの幸せをかみしめなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます