ベーコンエッグとスクランブルエッグ
神子元ダイビングを終えた翌日の日曜日..
朝起きて早々、神子元の海の事が頭の中に想い浮かんだ。
何に対してだかわからないけど、『やってやったぞ! 』という気持ちになった。
もしかしたらそれは最初に自分をつま弾きにした荒々しい海に対してだったのか、それとも上級者向けと言われる神子元を制覇したという思いからだったのかもしれない。
「でも、あれはガイドの後ろを付いていっただけか.. いつか私も神子元をガイドできるように.. いや、いや、私は黄金崎や初島のガイドの方が好き。神子元は精神が擦り切れちゃうもん」
久しぶりにベーコンエッグをつくろうとフライパンに手をかけた時、スマホの着信が鳴る。
~♪♪~
「もしもし、おはよう萌恵ちゃん。どうしたの? 」
「おはようございます。あの、昨日は凄かったですね——」
きっと萌恵ちゃんも昨日のダイビングの事を語りたかったのだろう。ひと通りの感動を語りつくすと、ようやく要件を話し始めた。ダイビングの器材を家で洗っていたらマスクが無いことに気が付いたらしいのだ。現地に忘れた可能性もあるけど、他の荷物に紛れているかもしれないという事だった。
「じゃ、私、今日暇だからお店に確認してきてあげるよ」
「え、急いでいないのでいつでもいいです。休みの日に悪いですから」
「いいよ。大丈夫。七海の家に行くついでにショップ寄っていくだけだから」
「ありがとうございます」
「じゃ、また後で連絡するね」
私は朝食を食べ終わったあと身支度をしてショップに向かった。
店に着いたのが9:40くらい。
開店には20分早かった。
「まだ開いてないかなぁ? もしかして海かなぁ? 」
『海にお出かけ中』のお知らせが掲示していないかドアの前を確認しに行く。
—ゴンっ!
急に開いたドアにおでこをぶつけた。
「痛っ!! 」
「あっ! ごめんなさいっ!! あれ、桃ちゃん!? 大丈夫? 」
ドアを開けたのは陽菜乃さんだった。
「あっ、陽菜乃さん! 大丈夫です.. 朝、早いですね」
「そお? もう10:00だよ」
クスクスと癒しの陽菜乃さんスマイルだ。
「でも、陽菜乃さんがんばりますね。海がない日なんか陽菜乃さんも休んじゃったらいいのに」
「うん。でも仕事をいろいろやらせてもらえて楽しいし」
「すごくポジティブですね」
「で、どうしたの? 桃ちゃんこそ今日は休みだよね? 」
「そうでした。あの、昨日のダイビングの荷物の中に私の友達のマスクが紛れてなかったですか? 」
「ああ、昨夜は荷物そのままで帰ったもんね。ちょっと確認してみようか? 」
『陽菜乃~。飯は~? 』
奥から片岡さんの声が聞こえる。
「あ、桃ちゃん、ちょっと待っていて」
陽菜乃さんは一旦ドアをしめて、裏の器材スペースの鍵を持って来てくれた。
萌恵ちゃんのマスクはショップの備品用バッグの中に紛れていた。
「ありがとうございます。よかったぁ 」
陽菜乃さんはまたニコニコしている。
「桃ちゃん、朝ごはんは食べた? 」
「はい。もう済ませました。何でですか? 」
「丁度、ショップのキッチンでスクランブルエッグを作ったから一緒にどうかなって思って」
「なに? あの男(片岡さん)、ご飯まで作らせているんですか? ちょっと勤務外労働は断ったほうがいいですよ! 私までやらされるかもしれないし.. 陽菜乃さんの料理食べていきたいけど、ちょっと友達の家に行かなければいけませんので」
「うん。じゃあ、またね」
「はい。陽菜乃さん、無理しないでくださいね」
「大丈夫だよ。ありがと」
私は早速、萌恵ちゃんにマスクを発見したことを教えて、七海の家に向かった。
****
玄関裏でカウカウと鼻を鳴らす音が聞こえる。
どうやら足音で気が付いたようだ。
「太郎丸、迎えに来たよ」
カウカウ.. グゥ..
いつもの甘えモードの声をだす。
「大きななりになっても甘えん坊だね。一日会えなかっただけなのに」
そういいながら太郎丸の顔におでこをあてる。
「いたた。さっきのたんこぶになってる.. 」
玄関を掃いているおばさんに挨拶をすると、七海の部屋に行く。
「おおりゃー! いつまで寝ておるかー! 」
布団をはぎ取って窓を全開にする。
「うう~。虐待で訴えてやる!! 」
七海がシャワー浴びている間、七海のプロフィールイラストを見る。
前よりもいろいろな絵柄があることに気が付いた。
「七海、がんばってるなぁ~。凄いよ」
と無理やり起こしたことに少し罪悪感を覚えた。
「は~、さっぱりした。やっと『おはよーっ』て感じだ! 」
「七海、ごめんね、もしかして夜遅くまで仕事してた? 」
「いや、夜通しゲームしてた! なんで? 」
..謝って損した。
七海に神子元ダイビングの話をして私からの報告が終わると、いつもの最新、七海ちゃん情報が始まった。
「あのさ、知ってる? 」
「知らない! 」
「腰を折るな!」
「へへへ」
「あのね、シューファのタイアップの話が流れてしまったらしいんだよ」
「え? アニソン歌手としてやる予定だったのに? 」
「そうなの。何でもシューファの所属している芸能事務所が小さくて力がない上にマネージメント上のミスで、既に告知段階の話が流れてしまったらしいんだよ」
「そうなの? なんだよぉー。残念だなあ」
シューファが所属する芸能事務所は主にジュエリー会社の専属モデルが多く所属している。
ジュエリー会社が出資している事務所だった。
「やっぱり芸能事務所もモデル業界とアニメや音楽の業界とは畑違いなのかもね。よくわからないけど。でもカンカンなのはシューファのお母さんだ。怒り冷め止まぬまま、これからは娘のマネージメントは自分がやるって言い出してるんだってさ」
「なんか荒れてるね。でもそれってシューファ嫌がるんじゃないの? 」
「そうだよ。『お母さんがマネージャーやるなら辞める』って言ってたよ。誰か信頼できるマネージャーがいれば解決するんだけど、あのお母さんの信頼を得るのは大変かもね」
「マネージャーかぁ.. 」
その時、私の頭にあるひとの顔が浮かんだ。
サブカルチャーに精通していてマネージメントとプロデュース力がある男!
「ねぇ、それって募集とかしてるの? 」
「う~ん。してるんじゃないの? 」
「私、ひとり思いついちゃった! ねぇ、七海、丸坊主の男の癒し空間を覚えてる」
「ははは。秋葉の.. えーっと『茶坊主』だっけ」
「違うでしょ! 『Chaboy』だよ。それをプロデュースした男」
「「重さん!! 」」
きっと重さんならシューファの力になれるに違いない!
私はそんな期待をしていた。
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