神子元リベンジ①『リクエスト』

台風は、『中秋の名月』さえも吹き飛ばした。

毎年恒例の『お月見大会』も今年は中止になってしまった。

その嵐が通り過ぎると季節は歩みを早め、冷たい秋風が身体を吹き抜けるようになった。


約3週間の期間を経て、腕の湿疹も完治、ようやくダイビング活動を再開!


なんと、私の復帰ダイビングは8月に惨敗した『神子元ダイビング』のリベンジだ。


前回、ゲストの白井さんと私はダウンカレント&アップカレントの2つの潮流に巻かれて、まるで洗濯物のように揉まれまくった。

今さらながらよく無事でいられたなぁ.. と思うほどだ。


今回の神子元リベンジダイビングはその白井さんからの折り入ってのお願いらしい。


『できれば柿沢さんも一緒に。もちろん、料金は割増でもいい』とお願いの追加もあったのだ。

本来、そんなデートクラブのようなご指名システムなどないのだが、今回は特例とした。


それは白井さんが私に甚く感謝をしているという理由からだ。


そういえば、あの日、白井さんには何度もお礼を言われた覚えがある。


あの時、岩を掴めず流されていく白井さんに気を取られ、たまたま私の手も岩から離れてしまった。

白井さんはあれを『自分を追いかけて助けに来てくれたもの』と思いこんでいるようなのだ。


私の知らない間に、わざわざ菓子折りを持って何度もショップを訪れたという。

なるほど、どうりで片岡さんの私に対しての態度がソフトになったわけだ。


白井さんは大手外資系PC会社の役員をしているVIPなお客様。

そのVIPが『サウザーダイビングのスタッフに対して感謝している』のだから、これは片岡さんにとっては好都合な話だ。


「今回、陽菜乃さんは行かないんですか? 」

「うん。私はお留守番だよ。桃ちゃん、前回楽しめなかった分楽しんできてね。」


相変わらず陽菜乃さんのニコニコ、クスクスはこのショップで唯一の癒し空間。


でも、本音としては陽菜乃さんが来てくれた方が、私は身の置き場があって良かったのに..


『来週、神子元のハンマーヘッド、再チャレンジするけど行かない? 』


私は竹内君にお誘いメールを打った。


間髪入れずに『もちろん行きます』と返ってくる。


するともう1通メールが届いた。


「桃さん、神子元ってところハンマー見れるんですか? 私も行きたい」


なんと萌恵ちゃんからもメールが来たのだ。


なぜ、萌恵ちゃんから??


『(峰岸さんから)乗り換えます』宣言をした萌恵ちゃん。

そして、そのタイミングで『アクチーニャ』に入った竹内君。


もしかしてムフフな関係に?

今、デート中だったり?

変な勘ぐりをしてしまう。


そのあと続けてメールが届く。

『いま、アクチーニャのメンバーと飲み会やってます。来ませんか? 』


なーんだ、飲み会か。

面白くなりそうだったのに..


ひとの恋バナに波乱を期待している自分にハッと気が付いた。


やばい、思考が明里さん化してるかも!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る