勇者ニタ&勇者ミゲルトvs勇者双子
「スーラ、大丈夫?」
「問題ない」
地の勇者ニタと風の勇者ミゲルト。地表と空中とを網羅してくる広範囲魔法の合わせ技に、私たちは今のところ防御に徹するほかなかった。
「ヘイル、対抗は出来ないのか?」
「馬鹿言わないでよ。一人の魔法使いじゃ二人の魔法使いには勝てないの。これだけ力が拮抗してたらどう足掻いても手数で負けるわよ」
「じゃあ、応援が来るのを待つか?」
「それこそ馬鹿言わないでよ。私たちだけ勝てなかったなんて、誰に言えるのよ」
「それはそうだ」
そもそも、私は一人の魔法使いじゃ勝てない、と言っただけだ。
「無理やりにでも崩すのよ。出来るでしょ? 双子の勇者の片割れ」
「愚問だな。……十秒だ」
「了解!」
小さくスーラが呟くのを聞いて、私は大きく頷いた。
「《クワトロ・エクスプロージョン》ーッ!」
「うわわっ!?」
「ミゲルト、下がるのじゃ」
四つの魔法陣から現れた炎の塊はニタとミゲルトの魔法の合間を縫ってぐんぐん進む。
一人じゃ勝てないって言ったのはあくまで弾幕の量の話。操作精度なら子どもとおじいちゃんに負けたりはしない!
ある程度の距離まで近づいた炎の弾は、しかしニタが作り出した土壁によって防がれる。そして炎の弾は壁に触れた途端大きくはじけ、音と共に光、そして熱を放った。ニタの土壁を崩すことは出来なかったけど、十分注意は逸らした!
「へ、へっ! 大したことないな!」
「それはどうかな?」
「む? ミゲルト、跳べ!」
「えっ!?」
安心したような笑みを浮かべたミゲルトの背後、そこには先程まで私のすぐ横にいたスーラがいた。すでに剣は抜き取っていて、その首筋に向けて振るわれていた。
しかし、ミゲルトはともかくニタはそれに反応していた。すかさず地面を震わせる魔法を発動させ、スーラの足元をすくう。ミゲルトは咄嗟に頭を下げ、更に地面の振動もあって転んでしまうが、それが幸いして、というか私たちからすれば災いしてスーラの攻撃を避けられた。
「ちょっと、何してるの!?」
「五月蠅い……ッチ、厄介だ」
「ふぉっふぉっふぉ、誉め言葉よのう」
ニタは畳み掛けるように土の塊をスーラ目掛けて連続させる。スーラは仕留め損なったミゲルトに追撃しようとしているけれど、ニタは当然そんなことを許さない。スーラの逃げ道を誘導し、ミゲルトから遠ざけている。
傍から見たらその意図は丸見えだし、スーラ自身も分かっているんだろうけど、分かっていてもミゲルトに近づくことは出来なかった。
「《ヘル・インフェルノ》ッ! 《エアリアルブラスト》ッ!」
「えっ!? それは僕の魔法!」
「別に誰の専売特許ってわけじゃないでしょ!」
炎魔法と風魔法の連携は、炎の渦を作り出して突き進む。ニタの作った土壁に触れるとそれを迂回するようにさらに燃え広がり、ニタを囲って焼き尽くさんとさらに広がる。
「ニタ爺!」
しかし、流石は風の勇者。とっさに私の風魔法を打ち消し、炎を分散させた。今まで風魔法を使わないでいたのはミゲルトの実力が分からなかったからだけど、やっぱり使わないほうが良さそうだ。神童って呼ばれてるだけあって実力派本物だ。
「ふぉっふぉっふぉ、助かったぞ、ミゲルトよ」
「ううん、ニタ爺こそさっきはありがとう……おい、二人の勇者! もう絶対に許さないからな!」
「その言葉、何度も聞いた、よ! 《ヘル・インフェルノ》ッ!」
会話の合間に挟む様に、私は片手間に魔法を放つ。
「《アース・ウォール》、ふむ、芸がないのぉ。手札はその程度か?」
「流石に老木に比べたら年輪は少ないけど、それなりに重ねてきたつもりだよ! スーラ、一気に行くよ!」
「合わせろ、しくじるなよ」
「そっちこそ! 《マテリアルインパクト》ッ!」
地面を削りながら、不可視の衝撃が直進する。ニタの造り出した土の壁が爆散し、その鋭い瞳孔が芦原になる。
「ほう?」
「《エフェクトトランサ》ーッ!」
突き進む不可視の攻撃に、私は更に魔法を上書きする。エフェクトトランサー、それは魔法の本来持つ効果を魔力を上乗せすることで方向性を変えることが出来るという魔法。
マテリアルインパクトは魔力を物質的な効力を持つエネルギーに変換し、それで攻撃するという魔法。その方向性を変える。
物質的、直進、破壊。
直進の部分を、分散に。
「《マルチ・アース・ウォール》」
「ニタ爺? って、うわわっ!?」
ニタは私の魔法が発動した直後には魔法を使い、自信のミゲルトの目の前に複数土の壁を形成した。そして、それだけではなかった。
今度は厄介なミゲルトから仕留めようと背後に回り込んだスーラの前にも壁を作る。スーラはステップ一つ分でミゲルトの方へと向かったが、そんなスーラの目の前に土の弾丸が素通りした。スーラは再びステップを踏んで一旦落ち着き、私の下へと帰って来る。
「ねえ、どうするの? もう崩せる気がしなくなってきたんだけど」
「ステータスで無理やり突破するにしても、俺たちとニタとに歴然とした差があるわけじゃない。ここは地道に体力を消耗させていくしかないだろうな」
「持久戦? まあ、別にいいよ。最強の名前が変わらないなら、どんな方法でも勝ってやるんだから」
私のその呟きが聞こえたのか、すべての土の壁を仕舞いこんだニタが笑う。
「ふぉっふぉっふぉ、威勢の良くていいこと良いこと。さて、あとどれくらいわしを楽しませられる?」
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