第7話 フローラの訴え
「あのさ」
アンは、両手を膝につけて、首をかがめる。
「あなた、名まえは?」
「えっ?」
名まえを聞かれただけで、なぜこんなに驚くのだろう。
「フローラ、だけど?」
昔の花の女神さまの名まえだったと思う。
「わたしはアン。アン・ファークラッドだけど」
「そんなのどっちでもいいよ」
「どっちでもよくない!」
なんだか話が噛み合っていない。名まえを聞いただけなのに。
でもそんなことにこだわっていてもしかたがない。アンは言う。
「ね? 世のなか、なんでも変えられるなんて、そんなことはできないから。それはあなたにもできないし、わたしにもできない」
「そんなことないよ」
フローラという女の子は強く言い張る。
「わたしにはできないけど、鍵の乙女にはできるんだよ」
「だから、わたし、鍵の乙女かどうかなんて、わからないじゃない?」
「だって、鍵、持ってるじゃないか!」
「「鍵を持ってる女の子」と「鍵の乙女」って違うでしょ?」
「ちがわないよ。だって」
女の子はアンから目を離すと、ぷくっと頬をふくらませた。
「鍵持ってるから、鍵の乙女だろう?」
こう言われると、困る。
「鍵を持っていれば鍵の乙女かも知れないけれど、あなたの言う鍵の乙女かどうかはわからない」と言い張ってもわかってもらえないだろう。その前に自分が混乱しそうだ。
こういうときお嬢様の家庭教師のヴィクターさんがいてくれたら、うまく話を整理してくれるんだけど、でも、ヴィクターさんは解雇されちゃった。
いや、たとえ解雇されてなくても、ここにヴィクターさんに来てもらうことはできない。
アン自身だって、どうしてあの丘からここに来ることができたのか、ぜんぜんわからないのだから。
フローラは目を逸らしたまま、言う。
「助けてくれる気、ないんだな?」
言ってから、アンをにらむ。
「ないわよ、そんなもん!」
と、メアリーお姉ちゃんならばいきなりどなり返しているところだ。
アンがそう言い返さなかったのは、そのうらみがましくにらんでいる目がなんともかわいらしかったからだ。
「ね? 助ける気があるもないも」
かわりに、アンは諭すように言う。
「何に困ってて、どういうふうにしたいから、手伝ってください、助けてくださいって言うのが順序でしょ? 助けるにしたって、いろんな助けかたがあるし、それによってできることとできないことがあるんだから」
「じゃ、助けてくれるんだなっ!」
フローラが目を輝かす。
ああ、もう、どう言っていいかわからない。
そう思っているところに、向こうからぬっと陰が現れた。
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