第三五話 クローの頭痛の種たち
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
クローが一通り話し終えると、オレウスは気の無い返答をしてきた。話している最中もどこか心あらずのような視線で、人のこと言えないけれども、ほんとに聞いていたのか怪しい。
「おい、ほんとに聞いていたのか」
「聞いてた聞いてた。自分勝手なしょうもない村人に襲われて、そこをレナ・シーに救われたんでしょ」
腕を組んで、「うんうん、大変だったね」と頷いている。
「それで、あの方の居場所を教えてくれるのか」
「う〜ん、それがさ、ボクも知らないんだよね。いつもさ、向こうから会いに来るからね。えへ」
「お〜ま〜え〜、散々話させてそれか! えへ、じゃねだろう〜」
「まあまあ、お腹が減ってるから怒りっぽくなってるんだよ。ほらほら、食べて食べて」
そう言って、オレウスに椀を押しつけられる。なんかオレウスに煙に巻かれているみたいだが、スープの匂いを嗅ぐと腹の虫が再び鳴いた。
そうこうしている内に、スープの匂いに釣られてか、ボックスが唸り始める。
「ルシア!」
そう叫んで、ボックスは飛び起きた。
「ボックス! よかった、目が覚めて」
クローは近寄って、水筒を手渡した。間近で観るとボックスは青白い顔をしているが、ひどく汗をかいていた。
「ここは? イテテ」
「塔の最上階だよ。なんとか戻ってきたんだ」
ボックスは、辺りを見回すと首に痛みが走ったのか、手のひらでさすっていた。そして、クローから水筒を受け取ると、余程喉が渇いていたのか、一気に飲み干した。
「なんだか、夢を見ていたみたいだ……。一つ目の化け物がいて、ルシアが驚いて……。それから……うっ……頭が……」
「落ち着いて、これを」
クローは、もう一つの水筒から手拭いに水をかけて手渡す。ボックスは、顔を拭ってから首の後ろに当てる。少し痛みが引いたのか、再度辺りを見回すと、見知らぬ人物が居るのに気がついた。
「あれは、誰だ」
ボックスは小声で質問した。
「あれは……、その……」
「ボクは、オレウス・ウル! ボクの幻術、驚いた! ねぇねぇ、驚いたでしょ!」
その問いを聞いたオレウスが自己紹介を始めた。
「まったく、余計なことを……」
クローは、片手で顔を覆う。
ボックスは、オレウスの様子に呆気にとられていたが、次第に思い出してきたのか、顔色が変わった。
「あれは、お前の仕業か!」
「危ない!」
怒り心頭となったボックスは、オレウスに掴みかかろうと立ち上がった。しかし、目眩に襲われて倒れそうになる。そこへクローが支えに入った。
「君たちは危なかったんだからね。もう少しで、闇に取り込まれそうだったんだから、ボクが救ってあげたんだから、ちょっとは感謝して欲しいなぁ」
「どういうことだ」
ボックスはクローを見るが、クローも首を横に振る。
「こんな闇の力が強い所で、《
「ああ〜ん、何だそれ」
クローは、すぐに思い至った。二人に見せたあの風景のことだろう。
『また、僕は二人を危険に晒した。やはり僕は
「そんなことないよ」
クローが思っていることを聞いたかのように、オレウスはクローを見つめている。それは、とても真摯な視線だった。
「ほらほら、せっかくのスープがさぁ、煮詰まっちゃうから早く食べようよぉ」
「そんな呑気な場合じゃねぇだろ! おい、ルシアは! まだ、目ぇ覚ましてねぇじゃねぇか! 起きろよルシア!」
「うるさいなぁ、その子は朝まで目を覚まさないよ。あっ、そうだ! ほら、詩によくあるじゃない、呪いをかけられて目を覚まさない少女に、英雄が口づけすると目を覚ますってやつ。やってみてよ! びっくりして起きるかもよ! ブチューとさ」
それを聞いたボックスは目を白黒させて、さっきとは違う赤さで、顔を染めた。
「こ、この糞アルヴのマセガキがー」
「ガキじゃないもんねぇー、ボクは君たちの十倍以上生きてるからねぇ! ベェーだ!」
「大人がベェーとかするか! バーカ! バーカ!」
とりあえず、ボックスが元気になったのは良かったことだ。クローはため息をついて、少し冷えたスープを啜った。
◆
「オレウス・ウル、ここは闇の力が強いとか、闇に取り込まれるって、どう言うことだい」
二人の不毛な口喧嘩が終わり、睨み合いをしながらもスープを啜っているオレウスにクローは問いかけた。あまりにも知らないことが多すぎる。これ以上知らずに、ボックスやルシアを危険に晒すのはごめんだ。だから状況に詳しそうなオレウスから教わっておきたい。
「君たちも変だとは思わなかったかい。この廃墟の街に来て、怪物に遭わないことを」
「そう言われてみれば……、それどころか、小動物や鳥も見当たらなかったし、虫に刺されることもなかったなぁ」
「無脳はこれだから困るよ」
オレウスの質問に、ボックスが思い出したように同意した。ふ〜とため息をついて、オレウスは肩をすくめる。
「それは、何故なんだろう?」
また、口喧嘩が始まる気配だったので、クローは続けて質問した。
「
「アミュレット?」
「護符とか、許可証と言えばいいかな。で、それを持つ者が定期的に訪れて、中で育ったコアを持つ者を排除しているんだ。そういう意味では、この廃墟は安全なんだ」
「だけど馬は通れたぜ。確か馬もコアを持っているはずだ」
「お、無脳のくせに良いところに気がついた」
「いい加減にやめてくれないか。話が進まない」
二人の睨み合いに、いい加減うんざりしたクローは叱りつけた。なぜかオレウスはどんよりとし、ボックスが勝ち誇っていたが、そんなボックスをクローは睨みつける。ボックスも下を向いて、大人しくなった。
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