第132話 帰郷の道すがら

元就は、吉田へ帰るまで夜な夜な、何かを執筆していた。

「父上、夜遅くまで起きていられるようですが……、あまり遅くまで起きていられては体に毒ですぞ」

隆元はそれとなく元就へ忠言する。

「分かっておる。じゃが、気遣いはありがたく頂こう」

元就はそう言うだけであった。

「はあ……」

隆元は不満げだが、納得することにした。


蜂起もほとんど落ち着いてきた。

元々、元就らが来た時点でも蜂起はだいぶん減ってはいたが、それでも元就らも二、三度程度蜂起の場にいただけである。

12月になり、すぐ元就らは吉田へと戻ることになった。


「短い間じゃったが、世話になり申した」

元就に代わり、隆元が謝辞を述べる。

「いえ。またお気軽にお越しください。精一杯お迎えさせていただきます」

降将の数人はそう言って隆元や元就に恭しく頭を下げた。


吉田に帰るのにも、また数日は要した。

「こういう時は、交通公共機関や車のありがたみをよく思い知らされるよ……」

悠月が松井とくるみにぼそりと言った。

「うんうん……」

「わかるわ……」

二人も思わず賛同する。

ブルル……、と馬が鼻を鳴らした。


「もう二、三日以内には着くじゃろう」

「そろそろ暗くなってきたのう。今夜はここで野宿じゃな」

元就はそう言って、陣営の準備をさせる。


「雪が降らねば良いがのう……」

隆元は少し心配そうに言った。

「どうじゃろうな……」

元就も一緒に天を仰いだ。


「そういえば父上」

「なんじゃ?」

「書き物はもうよろしいのですか?」

「うむ、問題ない」

「何を熱心にお書きになっていたのですか? 写経でございますか?」

「それは城に戻ってからのお楽しみじゃ」

元就は上機嫌に言う。

隆元はなんだか変な予感がして、ムズムズしたような気持ちになってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る