第124話 沼城攻略
撤退した隆元を見て、元就は隆元をねぎらう。
「無事に戻った様で何よりじゃ」
「申し訳ありません、父上。戦果は良いとは言えず……」
「お主なりに最善は尽くしたのじゃろう?そののちに無事に帰ることがお主の仕事じゃ」
元就はそう言って笑うだけであった。
元就は、息子二人とも攻略ができない城に対して、どうするべきか……、と策を練る。
知将と言われた隆景や隆元ですら手こずっているのだ。
元就自身が兵を率い、城攻めを始めたのは数か月後の2月であった。
元就は沼城の背後(北側)に位置する緑山から連なる峰(道徳山)に本陣を構え、隆元は東側の権現山に、隆景は南側の日隈山に布陣することになった。
さらに、緑山の西側にある熊ノ尾には山口からの増援に備える軍勢を配置した。
隆元や隆景は父の采配に、なるほど、と思うのであった。
「三隊から攻めるのであれば、確かに落とせるやもしれませんな」
隆景は納得と言わんばかりに言った。
「確かに、一つの隊だけなら兵力の分散は難しいもんな……」
「はい。さすがは父上です」
「最初に元就様が攻める段取りだったら、一番良かったのかも」
松井は苦笑いしながら言った。
「いえ、恐らく父上は私たちの策の練り方を知りたかったのやもしれません」
「それは、実質上の偵察という意味合いもあったのかも」
悠月は何となくそう思った。
「ええ。可能性は十分にあります。だからこそ、父上は私たちがあっさり敗退して帰ってきても優しく迎え入れてくれた、という可能性は十分にあります」
「そういうものなのか……」
松井は感心したように言う。
元就はある物を目撃した。
「なるほど、入り口はそこか」
ある物というのは、女である。
沼城に籠城する山崎興盛の子・山崎隆次は新婚であった。
だが、籠城の前に妻との離別を余儀なくされていた。
しかし、離別させられた妻は夫を恋焦がれ、ついにある晩に「恋う人は沼の彼方よ 濡れぬれて わたるわれをば とがめ給うな」と歌って沼の浅瀬を渡った。
また、この女が沼を渡る様子を見た毛利軍が、浅瀬の場所を知って城に攻め入ることができた。
2月19日より始まった毛利軍の攻撃に対して城兵は頑強に抵抗したものの、3月2日早朝の総攻撃で毛利軍は投げ入れた編竹と筵で沼地を埋め立て城に迫り、籠城していた男女1,500人余を殺害することとなった。
「……また人が」
「戦とはそういうものですよ、松兄様」
隆景も遺体から目をそらしながら言った。
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