第117話 計略の手紙

陣営を張り、元就はひたすらに作戦を練っていた。

「父上、少しはお休みになってはどうですか?」

「……隆元か」

隆元は元就の身を案じて休むよう一言声をかけた。


「もうしばし、策を練った後に休もうと思っておる」

「あまり詰めすぎても、父上のお身体に障ります」

「お主の気持ちはしかと受け取っておこう。そう言うのであれば、隆元よ。お主も早めに休むと良い」

「そうですね。ならば先に休ませていただきましょう」

元就は柔らかい笑みを浮かべた。


元就は偵察兵の書いてくれた図や手紙による詳細を何度も見た。

「ふむ……、やはりこちらか……」

元就は、手紙を書いて兵の一人に届けさせることとした。


「開城請う! 蓮華山城城主の椙杜すぎのもり 隆康たかやす様に手紙でございまする」

「大儀である」

あっさりと城門は開かれた。


椙杜は兵と自ら会い、手紙を受け取った。

「差出人は誰じゃ? 飛脚でもないお主が持ってきておるのだ、差出人を言っても差し支えはなかろう?」

「はっ、毛利元就にございます」

「元就公か……」

椙杜は手紙を目の前で開封し、読んだ。


「安芸へと帰属してはいかがか、なるほどのう。確かに、ここもいずれかは攻められ他の領土へとなるだろう。ならば、我らも毛利殿の世話になるとするか」

「よ、よろしいのですか?」

「うむ。元就殿は戦友でもあるからな」


驚くほどあっさりと、椙杜軍は毛利に寝返った。

手紙を預かっていた兵は、返事の手紙を受け取って元就の元へと帰還することとなった。


「元就様!」

「おお、どうじゃった!?」

「こちら、返答の手紙にございまする」


元就は手紙を受け取って開封し、読んだ。

「やはり椙杜殿はこちらに降ったか。我らも無駄に戦いたくはない。ありがたい限りじゃ」


「元就様!」

「おお、こちらも帰って来たか」

「こちら、返答の手紙でございまする」

「なぜお主が?」

「そちらこそ、なぜお主が?」

「両方ワシが手紙を送ることを依頼したからじゃ」

元就は笑って答えた。


「ただ、これはどうなることやらのう……」

元就の表情に陰りが出た。

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