第107話 荒れる海

荒れる海の中、元就の船のみのかがり火を頼りに、総軍で厳島へと向かう。

「本当、大丈夫なのか……?」

悠月は不安になってきた。

そもそも、荒れる海の中を航行するなど自殺行為にも等しい。

戦国の世よりもはるかに技術などが向上した現代でもそれは変わらない。


そして、予定の刻。

無事に厳島へと到着した元就は、本隊を下船させる。

「船は全て返すのじゃ」

つまりは、退くところはなし。


その役目を仰せつかったのは、児玉就方であった。

「よろしいのですか?」

「うむ」

つまり、背水の陣である。


「元春、お主の隊は先陣を切って突撃してもらう。博奕尾の方へ向かうんじゃ」

「おうよ!」

元春隊を先陣に、一同博奕尾の山越えを目指して山道を進軍していく。

もちろん、嵐の夜だから足場は非常に悪い。


一方で、小早川隊。

彼らは元就の命令通り、西岸の方へと夜の海を進軍していた。

厳島神社の大鳥居の近くまで進む。

「隆景様、このまま闇夜に紛れ、間者を装い島内に侵入してはいかがでしょう?」

乃美が隆景へと進言する。


「それが最も無難に入り込めますね。そうしましょう」

隆景は少し考えたのちにそう答えた。


海は荒れて風も強い。

だが、それでも陶軍の見張りがいる。

「とまれー! 船か? 何用じゃ!?」

隆景は頷く。

「筑前より援軍に参った! 陶殿にお目通りを願いたい!」

「嵐の中、ご苦労でござる!」

「さあ、こちらへ」

陶軍の見張り達はあっさりと隆景たちを島内に入れた。


「こんな簡単に……」

松井は唖然と小さい声で言った。

「これでこちらの手の通りです、松兄様」


隆景は怪しく笑った。

「上手く合流できればいいです」

それは誰か、松井は何となく予想がついた。

だが、ここで言っては全てが無駄になる。

松井は苦笑いで応えることにした。

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