第102話 前哨戦

安芸から大内方勢力を一掃した毛利氏は、大内氏・陶氏との全面対決の準備を急速に整えていった。


村上水軍にも、毛利方に付くよう協力を要請していた。

「海での戦は、やはり海に詳しいものに頼んでおこうと思う」

元就は隆元へそう伝える。

「ええ、その方が我らも安心して戦えますな」


「毛利の親父殿、我らも戦いましょう」

村上水軍からも、早々にいい返事が返ってきた。

というのも、毛利家の一門衆である宍戸隆家の嫡女を小早川隆景の養女にした上で村上水軍の頭領、通康へと嫁がせた為である。


元就は陶方の重臣である江良房栄を味方にすべく内応の打診をした。

「なるほど、毛利方の方が払いなど良さそうじゃ」


房栄は内応に応じたが、見返りとして内示された300貫の給地では満足せず、さらに加増を要求していたことが知られ、元就は服属後の房栄の態度に不安を感じていた。

「300貫? もう少しいただきたいところじゃな」

「できることなら、300貫で手を打っていただきたい。我らも戦となればやはり費用が必須であるのは、お主も承知であろう?」

「……考えておきますよ」

その態度に対し、あの隆元も激怒した。


房栄は元就の実力を熟知しており、陶に毛利との和平を説いた。

裏切ってはいないのに、元就が、房栄から元就に宛てた内通の偽文書をつくり、これを陶方に握らせ、その裏切りを信じさせてしまった。


「あの男、どうなるんだい?」

「元就様に内通の偽文章を作られた以上、無事では済まないよ」

悠月はそう言って、祈るように軽く手を組む。

「ということは……」

松井は言葉を濁す。

「あなたの早々通りの答えだと思うわ」

くるみは目を伏せて言う。


彼は、やはり陶軍の配下となった弘中によって暗殺された。

元就としては、あえて無理をして房栄を味方に加える必要はなかった。

したがって陶軍に謀殺させたことは、敵方の帷幄を消し去ったばかりか、晴賢家中の結束にクサビを打ち込む効果があった


「さてと、戦の支度じゃ」

隆元の号令が響く。

「次の戦の戦場は……、厳島じゃ!」

世にいう厳島の戦い。

その瞬間が、訪れようとしていた。

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