第98話 大寧寺の変 後編
義隆は、足を痛めながらも明朝には長門仙崎にたどり着いた。
「吉見の元へ行けば、何とか逃げられるだろう!」
義隆はその思いが原動力となり、逃走を続けた。
海路で縁戚に当たる石見の吉見正頼のもとを頼って脱出を図った。
ようやく吉見正頼の元へと辿り着くなり、義隆は泣きついた。
「吉見、船を! 船を出してくれ!」
「何を考えている! 死にたいか?」
「なぜいかんと言うのじゃ?」
「外を見よ!」
暴風雨のために逃れることができなかった。
「ああ、どうしたものか……」
「引き返せ。いずこか寺があるだろう? そこに逃げ込めばなんとかなるであろう」
「……あいわかった」
義隆は再び、付いてきた家臣らと共に痛む足を引き摺りながら寺へと駆け込んだ。
その寺こそが、長門深川にある大寧寺である。
義隆は僧侶に頼む。
「ワシらに戒名を授けてはくれまいか?」
「殿!」
「……かしこまりました」
僧侶はその願いを承諾した。
9/1、午前10時ごろ。
大内義隆は戒名を胸に自害した。
「討つ者も 討たるる者も
という辞世の句を残して。
冷泉隆豊は、大内義隆を介錯した。
「殿……おさらばにございます。ですが、私もすぐに向かいます」
隆豊は追ってきた陶軍を見つける。
「我が死に場所を見つけた」
隆豊は陶軍へと単騎で突撃した。
しかし、やはり多勢に無勢である。
彼の願いが叶ったと解釈すべきか、多勢に突っ込むとは無謀と解釈すべきか……。
攻め寄せる敵兵が恐れを成すまで戦った。
「さて……。私もそろそろ……」
火をかけた経蔵に入って辞世を詠んだ後に十文字に割腹。
さらには内臓を天井に投げつけて果てた。
「みもや立つ 雲も煙もなか空に さそいし風の 末ものこさず」
そう辞世の句を残し、冷泉隆豊もここに果てた。
義隆の亡くなった翌日。
義隆の嫡男・義尊も従者と共に逃亡していたが、陶方の追っ手によって捕らえられた。
「助命嘆願の約束では……」
従者は義尊の前に立ちふさがって守ろうとする。
「事情が変わった。生かしてはおけぬのだ」
現在の俵山温泉下安田にある麻羅観音の奥で従者も義尊も、落命した。
「これで大内家は事実上の壊滅じゃ!」
陶はそう言って勝鬨の声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます