第96話 陶の動き

相良は陶に、話を切り出した。

「陶殿、よろしいですかな?」

「なんじゃ?」

陶は機嫌悪く答える。


「私には、美貌が自慢の娘がおりまする。もし、陶殿さえ承諾をしてくださるのならば、いかがです? ご子息の妻になど……」

「いらぬ世話じゃ!」

陶は怒って答えた。

「お主の娘御は確かに美人と評判じゃ。じゃが、我がせがれにはもったいない話。おぬしの家柄と我が家柄、それを考えればよく分かることじゃろう!」


相良は陶の背を見送るほかなかった。

相良の考えた和睦案は、消滅したのである。

陶は怒り心頭であった。


陶は元就、元春の二名に手紙を書くことにした。

自分の思ったことをひっそりと、密書に込める。

陶と元春は、不思議と気があった。

その為、以前元春が防府へ訪れた際にひっそりと義兄弟の契りを交わしていたのである。


「杉や内藤と相談し、義隆を廃し、彼の息子の義尊よしたかに跡目を継がせたい」

二人の手紙にはこう書いた。

義尊は、義隆の嫡男である。

だが、実際に実子かどうかは疑わしい状況にあった。

そんな義尊はまだ幼子である。


陶は、彼を生かすべきか、それとも……。

悩み続けていたが、元就、元春両名には跡目に、として協力を仰ぐことにしていた。


やがて密書は、安芸の国にいる二人の元へと届いた。

元就は、隆元にはその手紙の内容を知らせなかった。

というのも、隆元は大内義隆を慕っているからである。

人質時代、彼は義隆に様々なことを教わったという。

その為、師として、第二の父同然に慕っているのである。


隆景も、隆元と似たような理由で知らされなかった。

彼は、大内義隆の仲介がなければ、小早川家の当主にはなりえなかった。

さらに、大内義隆は隆景を非常にかわいがっているから、隆景も慕っているのである。


元就は手紙を読み、それとなく元春を呼び寄せた。

「どう思う、元春」

「陶殿が手を貸してほしい、と申すのなら、ワシは義兄弟じゃ。助けるのが筋と言うもんじゃろう?」

「そうじゃな」

元就は、陶に見返りを要求することを許可するのなら、手を貸そうと返事を書いた。

陶はその申し出を承諾した。


そして、1551年8月。

ついに陶は決断を下した。

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