第95話 不穏な噂

元春が当主として治めることとなった吉川家。

それはすなわち、吉川が毛利一門になったということでもある。

「うーむ……、ここからだとどうもな……」

「いかがなされたのです、元春様」

「ここより、もう少し害要の方が何かあった時に指揮を執りやすい、と思っての」

「左様でございましたか」


だが、この小倉山城は元春の生母である妙玖が生まれた場所でもある。

「母上はここでお生まれになったという話も、父上から聞いておるけども……」

「思い出の場所でございますね」

新庄局はそう言って腕の中でぐずりそうな我が子をあやす。


元春はその後、火野山に城を築くと言い、家臣と共に火野山へと向かった。

「うむ、砦程度の物はあるのか……。ならばここから再整備を行い、最終的には要塞としたいな」

これが日野山城の元になったのである。


元春は早急に整備を始めるよう、家臣たちに指示を出す。

そして、自分も一緒になって整備に精を出した。

「元春様が頑張っておられるのだ!」

「うむ! 我らも精一杯やらねば失礼じゃ!」

家臣たちは、元春の姿により奮起する。


「山陽は隆景がおるから安泰じゃったが、これで山陰の方も安泰じゃな」

元就は吉川家、小早川家を息子たちに継がせた。

そして、吉川、小早川、の二つの家の川の字を取り『毛利両川』と称した。

ここは全て、元就の計算通りだったのである。


大内義隆は、自身の家臣の中でも武断派を日に日に遠ざけるようになっていた。

そして、文治派を政治の中枢へと据えていくようになり、自身は公家のような生活を送るようになっていた。


「また税が上がるのか……」

「大内様は一体何を考えていらっしゃるのやら……」

「民の生活を理解しておらん」

民からの不平不満が毎日のように届く。

「民を苦しめるとは……、一揆が起きますぞ!」

武断派の陶たちはひそかにそう思っていた。


「陶が謀反を企てておるようですぞ、義隆殿」

「それは本当か?」

「そのような噂が町中に流れておりまする」

そう密告したのは、相良武任。

彼は文治派の一人である。

「陶を誅殺し、殿のお命を守りましょう」

側近の冷泉 隆豊はそう義隆へ進言した。

「隆豊、それは真偽を問うてからでもよい」

だが、陶は真偽を問われたとしても答えは一つしか返さぬだろう。

豊隆はそう思っていた。

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