第79話 初陣

徳寿丸は鞆の浦に陣営することとなった。

正真正銘の『初陣』である。

「上手くできるかな?」

「徳寿丸なら大丈夫だよ、いざとなったら僕もいる」

「ありがとう、松兄様」

徳寿丸は緊張した面持ちから一転、明るい笑顔を見せる。


「徳寿丸様」

「出陣の刻ですか?」

「はい。左様にございます」

「分かりました。行こう!」

徳寿丸はしっかりと自分の装備を再確認して、馬に跨る。


「私の指揮に従ってください!」

凛々しく声が響く。

先ほどまで緊張し、自信なさげだった姿はどこへ行ったのやら、と松井は感心する。


「息子の初陣、心配だがこちらとしても期待もあるもんじゃな」

大内軍と共に従軍していた元就は、徳寿丸の堂々とした姿に感心する。

「松井も無理すんなよ!」

「悠月!? 来ていたのか……」

「おう。ま、話は後だな」

「徳寿丸、肩の力は抜いていくんじゃぞ~」

「兄上!」

「今日の戦が終わったら、ゆっくり話そう」

「はい、兄上たち!」


隆元や少輔次郎改め吉川元春、毛利家家臣筆頭の宍戸隆家の姿もある。

大内方としては、総攻撃をかけるつもりでいる。


徳寿丸は、山名氏が神辺城と大門湾の中間に位置する坪生庄の竜王山(現・清水山)に出城(坪生要害)を築いているのを発見した。

「あそこを攻め落としてみれば良いかもしれない」

「一日や二日で砦や城はできないだろうし……。早めに落とすのが良いかもね」

「はい、その通りです。早めに攻め落として、相手の勢いをくじいてしまいましょう」


徳寿丸が刀を掲げる。

「皆、坪生要害をめがけて攻撃をしてください!」

「かしこまりました!」

「行くぞー!」

鬨の声が上がり、兵たちは突撃する。


「うわぁ!」

「なんだ!?」

いきなりの襲撃に、山名氏側は大混乱が起こった。

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