第75話 父子再会

悠月に手紙を送り数日後。

徳寿丸は興奮したように玄関へ向かった。

「父上―! 兄上―!」

「おお、松井殿に徳寿丸! 息災であったか」

たまたま用事で備後の地を訪れていたので、その帰りに徳寿丸に会っていこう、と二人は思っていた。

「ご無沙汰しております、元就様、隆元様」

「うむ、松井殿も息災のようで何よりじゃ」

隆元はそう言って嬉しそうに笑う。


徳寿丸は訪問してきた元就と隆元に抱き着いた。

やはり、まだ彼は子どもだな、松井はそう思った。


「すまんの、徳寿丸。今日はすぐに戻らねばならんくてのう……」

「だが、元気そうなお前の顔が見られて安心した」

元就はそう言って、徳寿丸の頭を撫でた。

「今度は、もっとゆっくり遊びに来てください、父上」

「お?ワシはお邪魔だったかの?」

わざとふてくされて、隆元が言う。

「あー! いじけてる。大きい兄上がいじけてるー!」

「はいはい、どうせ私なぞ……」

徳寿丸はわざといじける隆元を面白がった。


松井には、兄妹がいない。

だからこそ、徳寿丸が少しうらやましくも思った。


「そういえば、悠月やくるみちゃんは元気にしていますか?」

「おお、もちろんじゃ。悠月殿がよく周りを笑わせてくれるから、我らの陣営も明るくてのう」

「くるみ殿も、食事などでみなを気遣ってくれておる。ありがたいことじゃ」

「二人とも元気そうで何よりです。今度、こっちにも遊びに来て、ってお伝えしてもらってよろしいですか?」

「もちろんじゃ。二人も喜ぶじゃろう」

隆元は上機嫌で答えた。

「さてと、そろそろ戻るかの?」

「左様ですな、父上」

「徳寿丸、また近いうちに会えると思う。それまで元気にしておくんじゃぞ!」

「はい……!」


隆元と元就は馬に乗って帰っていく。

徳寿丸はその背中を見えなくなるまで見送っていた。

「父上がまた近いうちにって言ったから、私も頑張らなくては!」

「偉いぞ、徳寿丸」

松井はそう言って徳寿丸を褒めた。


だが、一人で手紙を読み返した時……!

「……そんなこと、あるのかよ!」

悲しい運命が待っていることを、突き付けられた。

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