第74話 徳寿丸の決意
「……なるほど、ね」
松井は手紙を読み、大まかな神辺合戦の流れを覚える。
だが、最初からこちらが優位に立って戦闘ができるわけじゃない。
「大内義隆が徳寿丸に送った手紙の真意はそういうことか……。それにしても、なんでこんな長い手紙で根本的な解決法は書いてくれてないんだよ!」
さすがに少し腹が立ち、松井は乱暴に手紙を置いた。
「どうかしたの? 松兄様」
「え? ああ、大丈夫。なんでもないよ」
「それならいいけど」
徳寿丸はその言葉に安心したようだ。
ただ、助言らしい文はそれとなく手紙に盛り込まれていた。
恐らく、悠月たちの配慮だろう、と気付くのは大分後になってからだった。
「そういえば、大内義隆殿からの手紙の件、どう? できそう?」
「やらなきゃいけない、でしょう?」
「そうだね。一緒に考えようか?」
「ううん。これは私がやらないと。小早川水軍にうまく働きかけて、神辺城の南東にある五箇庄(大門・引野・能島・野々浜・津之下)を押さえないと」
まだ幼いが、すっかり当主としての貫禄と思わしいものの片鱗を見せる。
家臣たちは徳寿丸に従い、ここから攻めるか、どこを最後に落とすか、という軍議を始める。
「ところで、なんでそもそも神辺城を狙う必要があるんだろうね?」
「松兄様、神辺城は大内様にとっては大事な拠点だよ。それが、この前の月山富田城の戦いで城主の山名って人が尼子の味方になっちゃったんだ……」
「それで……、確かにそれなら山名さんにこっち側に戻ってきてもらうか、お城を返してもらわないといけない、ってことだね」
「はい!」
「それでこんな戦に……」
松井はようやく合点がいった。
「前の侵攻の時は父上たちが助けてくれましたが、毎度父上たちに助けてもらうわけにもいきません。私たちでもなんとかやらないと」
「徳寿丸様、大門湾周辺の手城島城や明智山城を落とし、敵の戦力を削ぐ、という策はいかがでしょう?」
乃美 隆興が徳寿丸に意見する。
彼は、のちに徳寿丸の重臣として名を馳せることとなる人物である。
「そうしましょう。だけど、民はなるべく助けて。悲しい犠牲は少ない方が良いから」
「なんと慈悲深い……!」
徳寿丸の願いに、乃美たちは感動した。
着々と戦の準備が始まる。
「悠月にも、一応知らせておくか」
松井は悠月に、神辺合戦の開始を告げる手紙を送ることにした。
「追伸……、返事はあまり長くしないように! これでよし、と」
松井はすぐに手紙を出した
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