第68話 悪夢

部屋から出てきた松井の元に、パタパタと走ってくる音がする。

その足音の主は、くるみであった。


「大丈夫そう?」

「うーん、やっぱり少し弱ってると思う。ケガはちゃんと少しずつ良くなっているけど、痛みも強そうだし、熱で体がしんどいだろうし」

「そう、だよね……」

「くるみちゃんも、悠月が起きたら顔を見せてあげたらいいよ。きっと喜ぶし」

「そうするわ」

やはり、くるみは心配そうだ。

松井は申し訳なさそうな顔をする。

「悠月、今寝たばかりだからさ」

「そう、なんだ……」

くるみは踵を返す。


松井は元就の元へ、悠月の状態についての報告に向かった。

「回復まではまだ時間がかかることでしょう」

「やはり、そうであったか」

「ええ。ケガが原因と思われる発熱もありますから」

「あのようなケガを負わせてしまったのは、こちらにも原因がある。ゆっくり養生させてやらねば」

「僕が看病します」

「なら頼もう。もちろん、ここにおる家臣らにも協力は惜しまぬよう通達しておくからの」

「ありがとうございます!」


悠月は暗い闇の中を彷徨っていた。

不思議と腹部の痛みも熱のだるさもない。

「……どうなっているんだ? 松井? くるみちゃん?」

周りを見渡しても暗い闇だけが広がっている。

と思えば、光が差し込む。

悠月は光に向かって歩き出した。


不思議なことに、悠月は自分の体を見つめている。

「あれは……、俺? まさか、俺、死んでる……!?」

ゾクッと背筋が凍る感覚がした。

「おい、俺、起きろ!」

体に触れようとしても、なぜか触れない。

「誰か、誰かいないのかよ! 俺の体を叩き起こしてくれ!」

祈るような気持ちで人を待つ。


「うわ!」

悠月は気が付くと、再び暗闇の中にいた。


ガバッ!

「……何だったんだ、今の……? 夢……にしちゃ気味悪いな」

「うなされておったぞ」

「うわぁ!?」

「何を驚いておるんじゃ?」

声の主は隆元であった。

隆元はからかうような口調で話しかけてくる。

「脅かさないでくださいよ……。びっくりした」

「思っていたよりは元気そうじゃな」

「多分、松井がくれた薬のおかげで熱が下がったんだと思います……」

「それは何よりじゃ。まあ、あまり無理してぶり返してはいかんから、ゆっくり休んでおくんじゃぞ」

「はい。ありがとうございます」

隆元は部屋を出た。

悠月は天井を見つつ、さっきの事を思い出そうとしていた。

だが、なぜか夢のような感覚は覚えていなかった。

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