第66話 治療

隆元は陣羽織を裂き始めた。

「急いで止血せねば命に係わる!」

隆元は矢を抜き、裂いた陣羽織や清潔な着物を裂いて悠月の傷に宛がい、止血を試みる。

悠月は傷を触れられた痛みに小さな声で呻く。


「どうして悠月が……!」

松井はボロボロと涙をこぼす。

「今は泣いて立ち止まっている時ではないじゃろう!」

隆元は厳しい声で言った。

「城まであと少しじゃ。悠月、頑張って持ちこたえてくれ」

元就は祈るような気持ちで言った。

城には医者が常駐している。

彼に治療などを頼むほかはない。

松井は強引に目を擦り、涙を拭って悠月を馬に乗せた。


吉田郡山城の入り口で、少輔次郎と徳寿丸が今か今かと帰りを待っていた。

「あ! 父上! 兄上!」

「お帰りなさーい!」

徳寿丸は元就に寄りつこうとしたが、隆元が制する。

「医者を呼べ、大至急じゃ!」

「ははっ!」

城兵たちが大慌てで医者を呼びに行く。


「あ……兄上?」

いつもと違う様子に、徳寿丸はびっくりする。

「すまんの、少輔次郎、徳寿丸。もうちと待ってくれの」

元就は諭すようにやさしく言った。


医者はまず、悠月を布団に寝かせる。

「まだ息があります。最善を尽くしましょう」

「よろしゅう頼む」

松井は付き添いを申し出た。

「悠月の傍にいさせてください!」

「うむ、ならば助手として手伝いを頼もう」

「はい! 悠月を助けてください」


医者が傷口を見る。

「毒矢ではなく、普通の矢であったのが幸いですね」

傷口を触れられると、悠月が呻く。

もちろん、麻酔なんてものはない。

「少々荒い治療ですよ」

焼酎で傷口を洗う。


「うっ……!」

悠月は悲鳴らしい悲鳴すら上げられず、激痛に呻く。

薬草を患部に乗せ、包帯を巻く。

「これで今の処置は終わりですが、定期的に傷の様子を見ましょう」

「ありがとうございます」

松井は悠月に代わって医者に頭を下げた。

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