第55話 毛利水軍誕生

佐東銀山城の戦いを終えた後、元就は大内義隆から書状を受け取った。

佐東川河口周辺の川ノ内(川内、河ノ内)地域が与える、というものであった。


「ふむ……、山陽道と瀬戸内海に面した安芸国の流通・経済の中心地じゃな……。安芸武田の遺した水軍も取り込んでゆけば、良い戦力になるじゃろう……」

「父上、安芸武田氏の者たちだけでは不安ですな……」

「お主もそう思うか、隆元」

「はい。やはり、安芸武田氏の再構など企むやもしれませんから」

「その通りじゃな」


元就は隆元からの進言もあり、譜代の部下である児玉就方や飯田義武を川ノ内警固衆の将に任じた。

これにより、事実上の毛利水軍が誕生したのである。


元就は、以前は断っていた徳寿丸の養子入りの話を改めて考えていた。

徳寿丸は、兄である少輔次郎と雪合戦した際、とても戦術を考えるのが上手であったことを思い出す。


「……将来的には、小早川家に徳寿丸を養子にやることになるじゃろうな。沼田の方には沼田警固衆や村上海賊衆がおる。徳寿丸に率いさせるというのも視野に入れるべきやも知れんの……」

元就はあれやこれやと毛利軍強化の策を練り始めた。


一方で、出雲に逃走していた武田信実であったが……。

彼は出雲でひっそりと息をひそめ、ほとぼりが冷めたのちに室町幕府へと出仕していた。

信実は若狭国を本拠とする奉公衆の本郷信富と親交が深く、足利義昭の将軍就任後に信富の身上について執り成し、彼から武家故実の指導を受けていたという。


小三郎は情報収集の為、ひっそりと出雲へ訪れた。

「……元の主君に会うやもしれぬが、今は元就様の影の身だ」

改めて自戒する。


「尼子に不審な動きはなし……、だが、恐らくはまた戦になるだろう」

小三郎はそう予感していた。

なぜならば、大内氏に対して、幕府は尼子討伐の命を下しているのだから、次は出雲の月山富田城が狙いとなるだろう、そう思っていた。


「だが……、いったいどこまで国人領主たちは信用できるであろうか……」

小三郎は不安を抱えながら、頃合いを見て安芸へと帰る。


大内義隆も、安芸・備後・出雲・石見の主要国人衆から、尼子氏退治を求める連署状が大内氏に出されたことを受け、陶隆房を初めとする武断派は出雲遠征を主張。

相良武任や冷泉隆豊ら文治派が反対する。

「ここで尼子をつぶしておかねば、のちの禍根となりましょう!」

陶は大内に強く訴えた。

「それは十分に考えられるのう。政府からの書状もある……。出陣じゃ!」

最終的に大内義隆は、出雲出兵に踏み切ることになった。

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