第232話:決着の刻、ジェンドメンダの最後
極限にまで圧縮された雷雲に、イェフィヤの超高温の炎が付与される。
すなわち、セレネイアが掲げた
セレネイアは右手に軽く力を添えているだけだ。目を覆うほどの光を散らしながら、剣身が
マリエッタとシルヴィーヌはセレネイアから手を離しているものの、すぐ
何とも不思議だった。
セレネイアは細心の注意をもって、
(マリエッタ、シルヴィーヌ、貴女たちの愛と力を感じるわ。それが私の中に
セレネイアの心の声は、あくまで自身の中に向けたものだ。決してマリエッタにもシルヴィーヌにも聞こえていないはずだった。
今、二人の目がはっきりとこちらに向けられている。この不思議な空間内に共にいるからだろうか。
≪セレネイアお姉様の思いが伝わってきます≫
≪私たちも同じですわ。セレネイアお姉様からいつも愛と力をいただいていますもの。そのお返しができるなら私たちは喜んで≫
三姉妹の絆を断ち
呼吸に伴って剣身全体を雷光が覆っていく。代わりに、それまで剣を
≪いよいよね。あの子の真の姿が
トゥウェルテナの右手に戻っているイェフィヤが、興味深げにその変幻を見つめている。応じたのはカラロェリだ。
≪好感。操作上々。本領。縛雷光≫
「
トゥウェルテナの
(これはディランダイン砦でレスティー様が見せてくださったラ=ファンデアの具現化と全く同じです)
セレネイアも感じ取っている。
≪セレネイア、ここまでは上出来よ。
あの時に見せたセレネイアの瞳の輝きをフィアは決して忘れていなかった。
本来、レスティーは鋼の刃のままで
フィアにどのような思いがあったかは分からない。レスティーもあえて聞くような真似はしない。
≪
フィアの優しさと厳しさが同時にセレネイアに流れ込んでくる。マリエッタとシルヴィーヌ、二人の妹とは異なるその感情はセレネイアを今以上に強くしてくれる。
≪フィア様、有り難うございます。私のために≫
即答で返ってくる。
≪貴女のためじゃないわ。私の愛しのレスティーのためよ≫
言われるまでもなく分かっている。セレネイアはそれでもフィアに礼を言いたかったのだ。
≪貴女にその剣を託した私にも少しは責任があるわね≫
照れ隠しなのか、刃の能力の改変には触れず、フィアが告げた。
≪
フィアの意識が離れていく。聞きたいことは山ほどあった。結局のところ、セレネイアは何も聞けないままだ。
フィアに代わって、
≪準備は整ったわよ≫
告げられたのは、
セレネイアはここで掲げていた
カヴィアーデ流に身を置くセレネイアにとって、自然の流れに身を委ねるのは至極当然のことだ。
右手片手持ちから左手を添えての両手持ちへと移行する。
「マリエッタ、シルヴィーヌ、あちらの十二将ディグレイオ殿のもとへ」
セレネイアは
雷光の余波は間違いなく彼女たちに及ばない。
それでもここは戦場だ。何が起きても不思議ではないし、むしろそれを想定していくべきだ。だからこそ、屈強な十二将ディグレイオのもとへ避難するよう促したのだった。
≪弾ける寸前ね。トゥウェルテナ、あの獣人族の男に≫
イェフィヤの言葉を受けて、トゥウェルテナが頷く。
グレアルーヴはまさにジェンドメンダと対峙している最中だ。それを承知のうえでトゥウェルテナは大声を張り上げた。
「グレアルーヴ、離れて」
グレアルーヴはもちろんのこと、ジェンドメンダもこの危機的状況を察している。
グレアルーヴこそ真っ先に仕留めなければならない。気を
身体の損壊など我慢すれば済む。核さえ破壊されなければ、いくらでも復活できるのだ。
グレアルーヴの爪から逃れている今なら、妖刀に魔力を注ぎ込める。ジェンドメンダは左手に魔力を集中した。
「受けるがよい。獣人族のグレアルーヴよ。我が奥義」
注ぎ込もうとする魔力が次から次へと霧散していく。
「なぜだ、どういうことだ。我の魔力が」
ジェンドメンダの言葉はそこで途絶えた。
未だ空を覆っている雷雲が弾け飛ぶ。耳をつんざかんばかりの
「終わりだ、ジェンドメンダ。発動、
グレアルーヴの
「俺の役目はここまでのようだ。十二将としての
グレアルーヴが獣人族の特性を存分に活かし、大きく飛び
「行きます。
セレネイアが意思を通わせた状態で、初めて
呼応するかのごとく、
逃げ場はなかった。グレアルーヴの
そして、ジェンドメンダの身体は粘性液体で構築されている。雷襲は液体の存在を決して許さない。感電するや全ての液体を刹那の内に気化させていった。
「セレネイア第一王女、見事なり」
雷撃の影響は液体の気化だけではない。ジェンドメンダが位置を移動させながら
「我の核が、
雷光に包まれた核が大地に落ちている。その中からジェンドメンダの声が響いてくる。
粘性液体は失ったものの、核を破壊しなければ終わりはない。ジェンドメンダに確実なる死を与えなければならない。そして、その役目はセレネイアではない。
「そうだ。それが俺の
ジェンドメンダの姿はない。もしあれば、皮肉めいた笑みをを浮かべているに違いない。
「そうか。貴様はあの時『この時を待っていた。二つの意味でだ』と言ったな。その一つがこれか。もう一つがその右手ということか」
グレアルーヴには核を破壊する前に聞いておかなければならないことがある。なぜ、ジェンドメンダが獣人族の秘術たる
だからこそ、真っ先に問う。
「我は
グレアルーヴは押し黙ったままだ。その顔が
「やるがよい。敗者は黙して去るのみ。我に情けなど無用」
この男にかける情けなど毛頭ない。一方でグレアルーヴは心の奥底で思うのだ。真っ当な道を歩んでいたら、いかほどに強くなっていただろうか。仮にもツクミナーロ流の師範にまで上り詰めた男なのだ。
「狂気は人を容易に変えてしまう。真っ当なお前とやり合ってみたかった。さらばだ、ジェンドメンダ」
「馬鹿なことを。我はたとえ生まれ変わったとしても、また女を
グレアルーヴの右手の爪が音もなく核を貫く。爪の効力は完全分解だ。
雷光に包まれた核が粉々に破壊され、原子にまで還っていく。
互いに言葉はなかった。ジェンドメンダが語ったとおり、敗者は黙して去るのみだ。有言実行、それがジェンドメンダの最後だった。
グレアルーヴは天に向かって
ようやくにしてジェンドメンダを
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