第059話:騎兵団の奮闘と見守る者
ビュルクヴィストが詠唱に入った。
彼の周囲は
これこそが彼の
一方で詠唱が完了、
魔術師にとって、最大の弱点は詠唱の前後に
大半の魔術師は、騎士や剣士といった者たちが盾となって身を守ってくれる。ビュルクヴィストや三賢者は、最前線に立って堂々と敵と
ビュルクヴィストもそうだが、ルシィーエットやオントワーヌも決してそれをよしとしなかった。賢者としての自負か、はたまた最前線で戦うことこそ優れた魔術師だと考えていたか。それは本人に聞かなければ分からない。
いずれにせよ、その流れは今の三賢者にもしっかり受け継がれている。
ビュルクヴィストは、過去の様々な戦いの中で
「アクセ・トゥプス・ヴェイネ・イドゥー・グフス
ルー・ヴミン・スルーンド・エピキュ・レフィー
ネーヴェ・アジエ・メーヴェ・エジェオ
冷たき青き世界を
ここに
悠久の眠りと果てなき凍える刻をもって
詠唱が霜の嵐に運ばれ、次第に力強さを増していく。
「これはビュルクヴィスト最大の水氷系固有魔術です。完全詠唱での魔術行使は初めて見ます」
エレニディールも相変わらずだ。この師にして、この弟子ありといったところか。魔術に対する知識欲は、師弟ともどもよい勝負だ。
詠唱成就は、すなわち
ビュルクヴィストは両手を前方に突き出し、手を重ねている。彼はその視線をイオニアを守って展開している騎兵団に移した。
「ホルベント、
二人の間には相当の距離があるものの、その声は確実に届いていた。右手の
「ビュルクヴィスト様、我らに初手の花を持たせてくださるか。
レスティーは静観している。ただ眺めているだけだ。自らが仕かけることは決してない。
今や、ひび割れた空間は完全に崩壊、
カランダイオが滅した
≪我が主レスティー様、これでよろしかったのでしょうか。あの者たちのためとはいえ。それにビュルクヴィスト殿も≫
≪確かに、ここまでお膳立てする必要もなかったであろう。あの者たちに
レスティーは、カランダイオの腕の中で気を失っているセレネイアに視線を転じる。
≪その娘が問題だ。そなたが告げたように、
≪では、あの男、クルシュヴィックでしょうか≫
セレネイアに要因がないなら、考えられるのはクルシュヴィックだけだ。カランダイオはクルシュヴィックという男は知っているが、その人となりを詳しく把握しているわけではない。
第一騎兵団副団長ともあろう者が、なぜ
≪それしかあるまい。あの男は
よし、今度は自分の番だと喜ぶカランダイオだった。
≪ビュルクヴィストだが、あの男のことだ。全て察しているだろう。捨て置いてよい≫
ホルベントは掲げた戦斧を勢いよく振り下ろした。それが合図となった。
「
「
第三騎兵団団長ハクゼブルフトの得意武器はクレラスピクと呼ぶ、全長およそ四メルクの長槍だ。先端の刃には雷撃の、柄全体には軽量化の魔術が付与されている。刃が標的に刺さると同時、
一方、第六騎兵団団長のケイランガの得意武器はプルフィケルメンと呼ぶ、全長およそ二メルクの大型弓だ。クレラスピク同様、全体に軽量化の魔術が付与されている。
特筆すべきは矢の方だ。狙う距離によって数種類用意され、
ハクゼブルフトが全体重を乗せて長槍を投擲、ケイランガが構えた弓の弦を引き絞り、軽やかに矢を射出した。
「
ホルベントが
魔術を帯びて光輝く刃と鏃が
イオニアとモルディーズは、つい先だって
マリエッタとシルヴィーヌは、そうはいかない。初めて見る
二人は、正直に思っていた。
なぜ、かの
そもそも、彼女たちは分かっていなかった。なぜ、先ほどまで座っていたセレネイアがカランダイオに支えられているのかということを。
こちらをじっと見つめる二人の視線に気づいたか。カランダイオはため息をつきつつ彼女たちに語りかける。
≪マリエッタ殿もシルヴィーヌ殿も、決してこちらに来てはなりませんよ≫
「えっ」
二人は同時に驚きの声を発していた。
≪声に出す必要はありません。直接、貴女たちの脳裏に語りかけていますからね。思ったことを頭に浮かべれば私と会話できます≫
早速、好奇心旺盛なシルヴィーヌが試してみる。
≪わあ、このようなことができるのですね。魔術は本当に不可思議なものですね。それで、セレネイアお姉様は≫
かなり筋がよいのだろう。あっさりと自分のものにしている。
マリエッタは苦戦していた。ついつい言葉になって出てしまう。本来、魔術の素養はマリエッタの方が断然高い。細かい制御が苦手のようだ。それも仕方がない。
≪マリエッタお姉様、こうするのですわ。それにしても、お姉様はルシィーエット様から
早速、シルヴィーヌが突っ込みを入れてくる。マリエッタは鬱陶しそうに言い返す。この二人の間は平常だ。
≪う、うるさいわよ、シルヴィーヌ。だって、仕方ないじゃない。ルシィーエット様はいつも『いちいち小さなことを気にするんじゃない。とにかく敵めがけて最大威力で一気にぶっ放せばいいんだ』と
マリエッタの声を聞いて、カランダイオは頭を抱えた。それでこそ、ルシィーエットなのだが、とはいえ、マリエッタには同情の念を禁じ得ない。
≪ともかくです。セレネイア殿は私に任せておいてください。貴女たちはそこから動かぬこと。よいですね≫
「やったか」
ホルベントはもちろん、騎兵団の中で
二人の団長の放った同時攻撃は、数百人単位の一軍を壊滅するだけの威力を有している。
二人が狙ったのは、あくまで人としての常識的な急所だ。それが必ずしも
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