第167話「そんな事より股間をつつく」





 第百六十七話『そんな事より股間をつつく』




 何故こうなった……

 どうしよう、いや……やるしかねぇ!!



「えっと……イェーガーッ!!」



“イェーガーッ!!”

“イェーガーッ!!”



 ぶふっ……

 クッ、眷属達が真剣だっ、笑ってはいかん!!



「アフィフィはっふんウィンそひイェーガーッ!!」



“ッッ!? アフィフィはっふんウィンそひイェーガーッ!!”



「はっ!! はっ!! はっ!! はっ!! ほっ!! そんフィんうぃっふんイェーガーッ!!」



“はっ!! はっ!! はっ!! はっ!! ほっ!! そんフィんうぃっふんイェーガーッ!!”



 ぶっふぅ!! それ何語ww

 笑うな、笑ってはならんぞ直樹ぃ!!


 みんな真剣に巨神アングルボザを崇めているのだっ!!

 あ~アカン、ワロてまうわ、助けてお母ちゃんっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 神木がアートマン神像の横に取り込んだ巨神像、眷属達が大騒ぎで集まって大変だった。


 質問攻めに遭ったのは言うまでもない。

 軽率にママ友とは言えないので、盟友神だと伝えた。


 魔王ロキの奥さんで、巨神で、スコルとハティのお婆ちゃんな事も付け加える。


 皆は驚いていたが、一番驚いたのはスコルとハティに対してだな。

 そして、『あぁ、だからあんな……』みたいな感じで二匹を見てた。


 戦槌と神槍を持つ恰好から、『戦神様ですか?』と聞かれたが、俺はよく知らんし、ヴェーダも『酒豪です』と答えにならない答えを返す始末。


 そこで俺は考える。

 魔王の嫁さんで巨神…………ッッ!!


 翻訳さん機能してくれと願いつつ、皆に向かって俺は言った。



進撃イェーガーし敵を駆逐エーレンする、進撃の巨神、だっ!!」



“うおおおおっ!! イェーガーッ!!”

“エーレン!! エーレン!!”


“マハー・アングルボザ!!”

“イェーガー・マハーアングル!!”



「えっと……イェーガーッ!!」



 そしてこうなった……

 ここまでノリが良いとは思わなかった。


 俺的ドイツ語っぽい歌を巫女衆がメモ書きしている……

 やめてくれ、俺の腹筋は破裂しそうなんだっ!!

 ちなみに続きも歌えます!!



 もう少しで爆笑するところだったが、天から注がれた力強く温かい神気が俺達を包み、興奮を感動の静粛に変えた。


 巨神アングルボザの加護が皆に付与されたのだろう。


 体が軽く、力がみなぎるのが分かる。

 何故か俺だけ二回神気が注がれた……?


 まぁいいや。皆は自分の称号欄を確認して喜んでるしなっ!!


 どれどれ、俺も確認して――



【称号・加護】


『アングルボザの加護(強)=力上昇・股間がアングルボザ』

『冥神ヘルの婚約者(強制)=好き』



 ん?

 ん~?


 ちょっと意味が分からない……


 股間がアングルボザ、ま、まぁ、なんとなく察する事は出来る。


 その次がワカラナイ……称号なの? 加護?


 婚約者(強制)……何で?

 効果は『好き』って、何が?


 オカシイでしょ……


 ヴェーダ、ヴェーダさんっ、ちょっと、ヴェーダさんっ!!

 怖い怖い怖い、見てコレ、何か変なの付いちゃったっ!!



『今ちょっと産んでるので待って下さい』



 今wちょっとw産んでるのでw待ってw下さいwww


 意味不すぎて芝3,200m大草原ワロタ。


 誰か助けてクレメンス……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




【アートマンの神域にて】



 瘴気溢れる神界一の危険地帯、もはや地獄と化したアートマンの神域、そこには新たに『智愛ちあい神ヴェーダ』の神域が増設・接続されていた。


 その新たな神域内にある神殿の一室から神気一杯の泣き声が放たれる。

 たった今ヴェーダが産んだ赤ん坊の泣き声だ。



「ンオギャァー!! ンッゴロース!! ンゴロセェー!!」



 殺意高めの泣き声に、産後とは思えないほど普通に赤子を抱いて歩く母のヴェーダもニッコリ。


 出産を見守ったお婆ちゃんのアートマンもニッコリ。

 ヴェーダと共に部屋を出て、一緒に客間へ向かう。


 部屋の警護に就いていたシタカラ達もニッコリ。

 アートマンが新たに生み出した天女達(インド風)もニッコリ。


 三面六臂の元気な赤ん坊に皆がニッコリした。

 赤ん坊なのにドス黒い体色なのがチャームポイントだ。



「これはまた、好い男だねぇ!!」

『『見たら帰れ』』

『『抱かせんぞ』』



 先ほど久しぶりに信仰の力を得て超ご機嫌なアングルボザも、『娘婿』の初子を客間で見てホッコリ。


 巨神の腕に巻き付いたままのミドガルズオルム(ヨルムンガンド)は、その赤ん坊を見て『どう見ても破壊神です有り難う御座いました』と白目を剥いた。


 時間から何から何まで全てを飲み込む『純黒カーラ』が破壊神のパーソナルカラーである事は、神々の常識である。



「……本当に、可愛いですわね」



 凍り付くような冷たい声、シタカラ達の笑顔が凍る。


 ヴェーダの出産に合わせて訪れていた冥界の女王ヘル。

 腐敗瘴気と冷気を含んだ吐息を漏らし、ヘルが赤ん坊に身を寄せる。


 神々の滅びと復活を掌握する権能を持つ古代神ヘル。その辺の神々とは格が違う。


 そんな彼女がアングルボザの隣で、シタカラ達の『敬愛する主様の嫡男』を見ている。微笑みながら見ている。とても心臓に悪い。


 冥神だ、冥界の支配者だ、シタカラ達にはアートマンや尊妻に匹敵する畏敬の対象。さすがに『それ以上、嫡男様に近付くな』とは言えない。


 出来れば、可能ならば、願わくは、その身に内包する驚異的な瘴気と漏れ出る冷気を嫡男様に当てないでっ!! シタカラ達は祈るしかない。



「抱いてみますか?」



 シタカラ達の心配を余所に、ヴェーダはヘルに我が子を近付けた。シタカラ達は危うく二度目の昇天かと思われるほど驚愕。



「宜しいのですか? お婆様もまだでしょう?」



 ヘルは気を遣ってアートマンを見る。


 アートマンは微笑んだ。

 ヴェーダ以外に笑みを見せるのは非常に珍しい。



『『気遣い無用、いつでも抱ける』』

『『汝の子は我が最初に抱こう』』



 ヤナトゥに対するヘラの気遣いは間違いではない、間違いではないが無用だ。


 残念ながら、不可触神アートマンが特別な愛情を注ぐのは御子だけ、嫡孫は可愛いが息子の可愛さに比べれば数十段は劣る。


 ヴェーダはそれを理解しているからこそ、赤ん坊を抱きたそうにしていたヘルに声を掛けた。


 アングルボザがヘルの背を押す。


 ヘルは長い黒髪を耳に掛け直し、ヴェーダが優しく抱いて差し出した赤ん坊を両手で受け取った。


 小さい、軽い、温かい……

 ヘルは赤ん坊に顔を寄せ、泣き続ける三面の赤ん坊に囁く。



義母ははですよ(ニチャァ)」


「ッッ!! ッッ!! ッッ!!」



 赤ん坊は恐怖のあまり泣き止んだ。


 アングルボザとミドガルズオルムは視線を逸らした。

 シタカラ達は『主様逃げてっ!!』と心の中で叫んだ。


 天女達は失禁した。失禁した事に気付かぬまま気絶した。


 ヴェーダは我が子の軟弱ぶりに苦笑した。鍛える必要が有る(使命感)


 アートマンは地上で笑いをこらえているナオキの股間を突いて遊んでいた。



 ナオキの腹筋は崩壊した。


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