第155話「何かに目覚めたっ!!」





 第百五十五話『何かに目覚めたっ!!』





 メハデヒ王国北部に在る二つの最下級魔窟、そのうち一つは攻略した。残る一つは初めから喧嘩腰で攻略を始める。


 当然のように近隣住民は蟲が処分済み、街道も蟲の大群が見張っている。人が通れば即殺だ。


 前回の魔窟攻略と違うのは警戒範囲。今回は北西に『魔ドンナ』の高難易度ダンジョン『パパドンプリーチ城』が在るので、念の為ヴェーダは警戒範囲を広げた。


 既に『パパドンプリーチ城』周辺には蟲が監視に付いてはいるが、俺がダンジョンマスターに成ってしまったので、新参者のたしなみとして無警戒は有り得ない、との事。


 まぁ言わんとする事は解る。


 そもそもダンマスってのがどんな存在なのか、どう言った思考で行動するのか、行動原理等の基準?的な、その辺の事情が判らない。


 魔ドンナってBBAも数百年引き籠ってるからな、魔竜並みに不気味だ。


 そんなヒッキーが今更最下級の魔窟に意識を向けるなんて事は無いと思うが、用心に越したことはない。


 そして相違点がもう一つ、関所や魔窟内の兵士と冒険者等を“なるべく”殺さず【影沼】内で生け捕る。


 あれだ、飼育用だな。人畜生ひとちくしょうだが、名称は人畜じんちくでいいか。


 俺がダンマスになったので、ダンジョン内で飼育する人畜が必要になった。悪魔達の繁殖にも役立つし、サキュバス系のエサにもなって一石二鳥。


 ダンジョンには眷属達も住ませるつもりだが、生気徴収は最低限に抑えたい。その為の人畜だ。



『超大国は豊富な資源を基に税率を一律2%ほどにしますので、英断です』



 よせよ、照れてしまうぜっ!!

 まぁ資源は腐るほど“居る”からなっ!!


 そのうち無税になるかもよっ!!

 な~んつってな!! ウェ~ハッハ。



『それはどうかと思います。義務や権利を根付かせるためにもケジメが肝要です。人外帝王が庇護する民に怠惰な愚民は要りません』



 よせよ、照れてしまうぜっ!!

 無学ゆえの羞恥心でなっ!!

 僕の顔を見んといてっ!! 見んといてっ!!



『はいはい、ウフフ。さぁ、関所と魔窟内の制圧が完了致しました、参りましょうか』



 待ち給えヴェーダ君っ!!



『何でしょう?』



 お前ちょっと俺の中から魔窟をハッキング?してみ。こう、俺のダンマス権を使って浸食的な感じで、俺と同調してるお前ならたぶん出来るぜ?



『?? それはどう言う……あ、あぁ、なるほど、ははぁ、出来ますね』



 だろ?



『これって貴方だけが出来る技能でしょう、普通のダンジョンマスターは外をうろつけませんから、他所のダンジョンや魔窟を入り口から浸食は……まず考える事も無い』



 ほほ~ん、まぁ出来るならイイじゃん!!

 俺はアホだからよ、メカメカしいのは苦手なんだっ!!

 でもお前なら出来ると思った。さすが俺の尊妻だなっ!!



『んもぅ、またそうやって……ハイ、魔窟の制御権を奪いました。ここのコアも邪神にくみしたポンコツのようですね』



 お疲れちゃーん。

 そんじゃぁパパっと転移して喰いますかぁ。


 良い子のみんな~、集まれ~!!

 コアルームに行っくぞぉ~!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 はい、みんなで来ましたコアルーム。


 コアが何か言ってたけど覚えていません。

 そして喰いました。ンまいっ!!


 んっん~ビター、ビターテイストだった。

 大人の味だな。酒精は強めか、フフッ。



『ノンアルコールですよね?』



 まぁ、雰囲気を無視すればそうとも言う。

 そう言う考えもある。好きじゃないがっ!!


 しっかし、たったの二個でキくねぇ……

 ヒュ~、コイツぁまた、みなぎるじゃねぇの。



『信じ難い上昇値ですね……、総合力だけならトモエとイセに並びます。億越えです』



 でもあの二人【貫壊】が有るから……僕死んでしまうなの。

 明後日から養殖殺してレベル上げるだろうから……手に負えないなの。

 熟練度8の火魔法修得するだけで今の僕より倍以上強いなの。


 本当に死んでしまうなの……。



『大丈夫です、好い男は負けませんよ』



 こ、こんなに嘘臭ぇ激励を聞いたのは初めてだ……っ!!

 鼻ホジしながら言ってんじゃねぇのお前?


 とりあえず、コアルームを改造して最奥に隠し部屋を造る。ここのコアもDP貯めてた。


 今回はチビッ子達の為に遊戯場を造ったぜ。

 すべり台とか簡単な物だけどね。メチャが一番楽しんでました。


 君達は遊んでいなさい。


 そして倉庫の奥に魔界トンネル設置。

 電波被害はコリゴリなので、ちゃんと指定して悪魔を呼びます。


 黒紫の渦が動きます。キッショ。

 人影が見えてきましたねぇ……ん?



「大猿王陛下に於かれましてはご機嫌麗しゅう」


「ああ、こんにちは。え~っと……」



 おやおや~……こりゃまた……

 黒髪褐色肌の美女ではある、蝙蝠の羽もある。

 しかし、これまた服装が簡素な貫頭衣。流行ってんの?



『……何のつもりだ貴様』

「お初にお目にかかる知識神」



 おぉっと~、ヴェーダの機嫌が悪いぞ~?



『指定された悪魔を押しのけたか下郎、明けの明星の臭いを付けた飼い犬が何用か』


「これは手厳しい、無礼は詫びましょう。魔王城で下女をしておりますれば、臭いは御寛恕かんじょ願います。しかし、大魔王陛下が私を遣わしたわけでは御座いません。これは私の、我々の意思、総意です。大猿王陛下との眷属契約にも同意致しました」


『何用かと聞いている』


「滅びゆく我ら『キスキル・リラ』に大猿王陛下のご慈悲を」


『シュメールの女悪魔か……』



 え? シュメール?

 シュメール文明のシュメール?



『ギルガメッシュ王に大半を滅ぼされた一族です。サキュバスの祖ですね』


「採用っ!!」

『ラージャ……』

「嗚呼っ大猿王陛下に栄光あれっ!!」



 涙を流して喜んでくれた。

 魔界で酷い扱いだったのかな?



『伝説的な大王に滅ぼされ、歴史からも人々からも忘れ去られた悪魔です。その名を知る者は少ないでしょう。悪魔としての力はゼロに近い。力を信奉する魔界での立場は下の下、ですね。この者は私の知識に無い未登録の世代です』


「グスン、若輩で御座います……」



 はへぇ~。そりゃご愁傷様ですな。

 なるほどねぇ、ヴェーダが警戒したのは知識に無かったからか。


 しっかし、そんな弱いのがまぁ、よくトンネルをくぐれたな?


 すっげぇ疑問だよコレ。答えによっちゃ死ぬぜアンタ。



「あのさ、君はどうやってトンネルに入ったの? 俺が指定したサキュバスはどうした?」


「あぁ、はい、条件に沿うサキュバスがトンネル入り口に殺到致しまして、殴り合いを始めましたので、『今しかない』と、突貫致しました!!」


「ハハハッ、いい度胸だ、そういうの俺は好きだぜ?」

「お褒めに預かり恐悦至極っ!!」


「よし、じゃぁ名前聞こうか」

「……名は、御座いません……っ!!」


『一般的な下級悪魔は名が有りませんし、慣習として名乗りを許されておりません。上位者から制裁を受けます』



 えぇぇ……

 その辺は自由って感じがするんだが、魔界の慣習もよく分からんな。



「そんじゃぁ、好きな名前考えなよ」

「え……授けて下さらないのですか……」



 そんな絶望した顔されても……

 凄くメンドクサイ……



「って言うか、俺が名付けすると問題が出るんだよなぁ」


『では、この者をサブマスとして特別に名付け、それ以降はサブマスが名付けるようにしましょう』


「それでいいな、決定」

「ででで、では名前を頂けるので……?」


「うん、そうだなぁ……君の名は……」



 シュメール人の名前ってどんなの? 女性。



『キスキル・リラで有名なのはリリトゥですが』



 リリトゥ?

 リリスの語源かな?

 まぁどうでもいいか。



「よっしゃ、君は今日から『リリー』ちゃん!!」

「ンッ……私の名はリリー。美しい名を賜り恐悦に存じます!!」



 相変わらず、名付けするとイクなぁ。

 頬を染めて潤んだ瞳で見つめないで下さい。

 勃起案件のタイミングは考えて欲しいですね。


 え~っと、この子らもサキュバス的な働きをするの?



『無論です、祖ですから』



 そんじゃ、早速サブマスにして、サブコアを渡します。あとは最奥にダミーコアを設置しましょう。


 この子らが寝泊まりする場所は……

 コアルームの隠し部屋は俺が使うから、隠し階層造った方がいいよなぁ。


 どうせ人数も増えるだろうし、『大きな部屋』じゃぁパンクする。毎晩冒険者達とテントや『ヤリ部屋』で寝泊まり出来るわけじゃないしな。


 もう一方の魔窟も隠し階層造ってやろう。



 アレレ?

 何だか、凄く楽しい……っ!!


 早く本格的なダンジョン経営してぇぜっ!!







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