騎兵指揮官アダン
「この地点に騎兵を待機させていて欲しい」
ヴェルナールは地図の一点を指し示した。
それはロアール川が形成させた河岸段丘の一つだった。
周囲は木々に囲まれ部隊を隠すには最適な場所であった。
「それはできるが……しかしヴェルナール殿の騎兵突撃に同伴させる方が良いのでは?アレクシア殿の方とヴェルナール殿の方とでは騎兵戦力に差ができている」
ヴェルナールとアレクシア、コンデ公とコリニー将軍はプロテスタリー勢力の騎兵部隊をどう活用するかを話し合っていた。
「どういう意図だ?」
アレクシアはヴェルナールへと問う。
「後詰をお願いしたいのです」
本音を言えば機動戦を仕掛けたいヴェルナールとしては、組織系統が異なる騎兵部隊と行動を共にすることは避けたいという思惑があった。
騎兵の連携というのは一朝一夕で出来るものでは無いのだ。
「では戦力を遊ばせていろと?」
やや怪訝な眼差しでコリニー将軍はヴェルナールを見た。
「そういうわけではありません。ここに敵を連れてきます」
「そんなことが出来るのか?」
「確約はしかねますがね。ですがかなりの高確率だと思いますよ?」
陸軍国家たる帝国にアルフォンスの軍旗を掲げた騎兵で奇襲を仕掛け、ある程度の犠牲を与えればティベリウスは追撃を行うという確信があった。
◆❖◇◇❖◆
「本当に引っ張ってくるとはな……」
アルフォンス騎兵が引き連れてきた帝国騎兵を見つめながら騎兵部隊を預かるコリニー将軍の腹心、アダンは驚いたような表情を浮かべた。
「打って出ますか?」
アダンの部下は指揮権を持つアダンの指示を仰ぐ。
だがアダンは首を横に振った。
「まだ早い」
ヴェルナールと同じ騎兵指揮官として騎兵の弱点を熟知していた。
「しかし、アルフォンス公は我々の攻撃を待っているのでは!?」
「それはそうだろう。だが今じゃないとも思ってるはずだ」
「ではいつならば……?」
「敵がこちらに背を向けてからだ」
アダンの目には帝国騎兵の側面を取るべく動く銃騎兵の姿が見えていた。
「あれを見ろ」
部下に対してアダンは、銃騎兵を指さす。
「ヴェルナールという指揮官がいなくても、指揮官の意図を汲んで彼らは動いている。素晴らしい軍隊だ」
アダンは羨望の眼差しで銃騎兵を見つめた。
「敵にならなかったことを喜ぶべきなのかもしれません……」
「それはそうだな」
地響きとともに丘の麓をアルフォンス騎兵が通り過ぎていく。
そしてそのまま麓にそって丘をまわり、丘上に潜むアダン達に背を見せた。
帝国騎兵もまたそれを追い回すかのように丘上には目もくれず同様に背を見せた。
それを見たアダンは大きく息を吸うと命令を下す。
「隠れるのはこれで終わりだ!打って出るぞ!」
「「うおぉぉぉぉぉっ!」」
意気軒昂、プロテスタリー騎兵達は雄叫びを上げながら奔流となって丘を下った。
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