機動戦

 河岸段丘を抜けて横合いに出た騎兵が横隊突撃の陣形で動き出したことは、さすがに帝国軍の感知するところとなった。

 

 「右備えと左備えに敵騎兵、殺到します!」

 「槍衾を構築して耐えろ!」

 「槍を持った歩兵は、左右に回れ!」

 「銃兵による支援を求む!」

 「連中の狙いは補給物資だ!補給部隊に援護を!」


 予想外の敵の出現に混乱に陥った帝国軍陣地は様々な指示が錯綜した。

 それまで南面のプロテスタリー勢力に気を取られていた帝国軍は完全に遅れをとる形となった。


 「哨戒部隊は何をやっていたのだ!?」


 各方向に放った数人単位の哨戒部隊からなんの連絡もないことにティベリウスは烈火の如く怒り狂った。


 「おそらく敵によって事前に壊滅させられたのでしょう」

 

 居合わせた将校が諌める形でどうにかティベリウスは怒りを収めた。

 

 「右備え及び左備え、戦闘に突入します!」


 見張りの兵士の声にティベリウスは、戦場へと目を向ける。

 

 「銃騎兵、道を開いてやれ!」


 ヴェルナールの指示の元、最前列の銃騎兵が帝国軍陣地へと殺到する。

 そして銃の有効射程に入ると彼らは、マスケット銃を構えた。

 馬は依然として前進を続けたまま、彼らは引鉄を引く。

 鞍と銃とを結んだ紐を張って射撃の安定性を図るなどの創意工夫を凝らした銃騎兵達の射撃は、まずまずの成果を得た。


 「重騎兵、軽騎兵の順で続け!」


 銃騎兵は敵前で二手に別れると左右に分かれて退却していく。

 

 「突撃!」

 「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」


 銃騎兵の射撃で疎らになった歩兵達の元へと他の騎兵が突貫した。

 地響きとともに帝国軍の左備えは砕け散る。

 一方の東側でもアレクシア率いる騎兵部隊が猛威を振るっていた。

 

 「アルフォンス騎兵に遅れをとるなよ!」

 

 アレクシアもまた甲冑に身を包み騎兵達を叱咤激励し帝国軍の右備えへの騎兵突撃を敢行する。

 弓騎兵が敵陣へと矢を放ち怯んだところへ突撃という渾然一体の突撃に、迎撃の準備が間に合わなかった帝国軍は面白いように犠牲者を出していく。

 盾を持つ重装歩兵はオルレアンの街と向き合っているため身を守る術は、自ら飛来する矢を叩き落とすくらいしかないのだ。


 「おのれ小癪なアルフォンス!」


 重装歩兵の再配置が間に合わず、完全に出し抜かれる形となった戦況にティベリウスは歯ぎしりした。


 「ええいっ、本隊の騎兵戦力を抽出して、西のアルフォンス勢を殲滅するのじゃ!」

 

 忌々しげに言い放ったティベリウスは、自らを守る防衛戦力をアルフォンス勢に割り当てる判断をした。

 慌ただしく動き出すカロリングの騎兵にヴェルナールは戦いの渦中にいながらも気付いた。


 「どうやら相当な恨みを買ってるらしいな」


 手近な敵兵に槍を突き立てるとヴェルナールは周囲の味方へと叫ぶ。


 「敵騎兵が来るぞ!数はおそらく向こうの方が多い、一旦退いて迎撃体勢を整える!」


 アルフォンス騎兵はすぐさま、退却を開始した。


 「こちらの意図を察したか!じゃが背中を見せた今が好機!追え!」

 「しかし、まだ用意が整っておりません!」

 「構わん、出撃出来る者から出せ!」


 背を見せた敵を後ろから突く、戦略としては実に正しい戦略だった。

 多くが死に瓦解した千余の左備えを迂回するように帝国軍騎兵が追走を開始する。


 「釣りだされて来たか」


 ヴェルナールは、ちらりと後方に目をやると口角を釣り上げた。

 

 「よし、重騎兵及び軽騎兵は馬首を返して突撃用意だ。銃騎兵は二手に分かれて敵の両側面を叩け!」

 

 ヴェルナールの選択は、騎兵の本領発揮ともいえる機動戦だった。

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