共闘2

 「こちらの兵数は三軍合わせて一万五千弱、帝国軍とほぼ同数というわけだ」

 「ただ敵には多数の銃がいるのが気がかりだが……ヴェルナール、無力化を図れないか?」

 「蛇の道は朽縄が知る、というわですか?」


 三軍合わせても銃を持つのはヴェルナール率いるアルフォンス軍のみ。

 騎兵戦力は非常に充実してはいるが、近距離での勝負は銃が主体になることは四人にとって容易に想像できた。


 「我々が有利に立てる状況を作り出すのが勝利への近道、騎兵を用いての野戦でことを決するが寛容と判断します」

 「しかし、騎兵とて銃を前にしては損害を出すのでは?」


 コリニー将軍は疑念に満ちた目でヴェルナールを見る。


 「それはもちろんそうでしょう。ならどうすればいいでしょう?」


 ヴェルナールはそこで言葉を一度きり、一拍おいてから続けた。


 「銃兵の気を逸らせばいいのですよ」

 「どうやって!?」

 「今から説明致しましょう」


 ヴェルナールはニッと笑った。

 卓上の地図にはオルレアン市が描かれており、大まかな部隊配置がわかるようチェスの駒が置かれている。


 「歩兵をルーク、騎兵をナイトとでもしましょうか」


 ヴェルナールはオルレアン市南岸の味方のルークを前進させた。


 「こちらから少し圧をかけてやります。すると……」


 帝国軍のビショップを手にしたヴェルナールは歩兵の前にビショップを置く。


 「銃兵は当然その歩兵に食いつく。あまりにも有効な兵器を持っていると、それを使うことに思考は固執しがちなのです」


 ヴェルナールは市街地に待機させていた白のナイトを手に取り、それを帝国軍の側面に置いた。


 「幸いにも我々は騎兵が充実している。相手に態勢を立て直す暇すら与えず攻撃し続けることも可能でしょ」


 アルフォンスの精鋭騎兵が千余騎、ヴァロワの再精鋭たる近衛軍団の騎兵も同数、ここにアレクシアの私兵の騎兵とプロテスタリー勢力の騎兵が加わればやはり千程度にはなる。

 三千の騎兵を同時に使えることなどまずもって無い、それほどの大兵力だった。


 「話を聞く限りでは勝てそうな気がするな」


 コンデ公は卓上の駒を見つめながら言った。


 「しかし一つ、プロテスタリー勢力の御二方に担って貰いたい重要な役割があります」


 ヴェルナールがコンデ公とコリニー将軍の二人に視線を送る。


 「なんだ?」


 コンデ公はヴェルナールを見つめ返し、コリニー将軍は前のめりになっていた姿勢を正した。


 「戦争の第一撃は帝国軍の側からしてもらいたいのですよ。そうなれば我々に帝国軍を討つ大義名分が手に入る。そうなればこれ以上のヒスパーニャの介入は見込めず、周囲の国や諸侯からは同情を買うことさえできます」


 ヴェルナールがそう言うとコリニー将軍は意図を察したのか


 「つまり、戦闘に先立ち帝国軍を刺激すればよろしい、こういうことですね?」

 「えぇ、存分に苛立たせてください」


 苛立ちは時に正常な判断力さえ奪う。

 ヴェルナールは、ジュリアアルプスの戦闘でそれを体感していた。

 

 「わかりました。その辺はお任せ下さい」

 「色良い返答に感謝します」


 ヴェルナールはコリニー将軍の手をとると握手を交わした。

 かくして翌日に控えた戦闘への算段が整ったのだった。

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