オルレアン挟撃

 アルフォンス軍の移動は極めて早かった。

 翌日の昼、アルフォンス軍はロアール川の南岸からオルレアン市に入っていた。


 「くっそ、どこから湧いてでた!?」


 物資は枯渇しジリ貧とも言える状態で南岸にいたカトリコス勢力の部隊はすぐさま応戦に移るが簡単に押し切られていた。


 「橋の北側の敵、来ます!」

 「部隊の一部を再配置、応戦させろ!」

 

 前後からの挟撃を受け完全に浮き足立った。

 

 「お前達、盾兵を前衛にして徐々に距離を詰めていけ!こんなくだらない戦いで命を落とすことは許さん!」


 ヴェルナールの指示の元、アルフォンス軍は少ない犠牲で確実にカトリコス勢力の軍を屠っていく。

 

 「あの盾をどうにかしろ!」

 「矢が効かないからどうしようもない!」


 狭い通りを右往左往しているうちに、盾兵と入れ替わりに出てきた槍兵に好き放題突かれ始める。

 もはや、完全に防衛線は瓦解しており後退を使用にも挟撃されていては退くにも退けなかった。

 戦闘が始まってから一時間と経たないうちに南岸に広がる市街地の半分は既にアルフォンス軍が占拠している状況にカトリコス勢力は、降伏を決意した。

 白旗を掲げた数人の将兵が通りの中央を武器も持たずに歩いてくる。


 「我々はこれ以上の戦闘を望まぬ」


 口が裂けてでも「降伏」の二文字は言いたくないのか、和平交渉のような口調で代表の男はふてぶてしげに言った。


 「で、どうしたい?」


 ヴェルナールからすれば、講和の話なら乗るつもりはない。

 素っ気ない態度で応じた。


 「貴軍と我が軍との間に和平交渉を結びたいのだ」

 「ふっ」


 ノエルが小馬鹿にしたように笑う。


 「女ぁ!今笑ったな!?」


 丸腰のまま男はノエルに食ってかかるがすぐさま男はアルフォンス兵により取り押さえられた。


 「和平とは戦闘が拮抗状態にあるときに結ぶものですよ?戦況を見てご覧なさい。あなたの軍が今どういう状態にあるかをね!」


 ノエルにしては珍しく鋭い舌鋒で男に言った。


 「貴方は何をしにここへ来たのですか?」


 男は項垂れるしか無かった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「予定よりも早く南岸の奪取に成功したな」


 掲げられるアルフォンスの軍旗を見ながらヴェルナールは満足そうな表情を浮かべた。


 「おそらく夕刻には帝国軍が進出してくるでしょうからまだしばらく時はありますね」


 ノエルは太陽を睨んで言った。

 太陽は中天をすぎ西へと徐々に傾いている。


 「閣下、アレクシア殿より使者が来ております!」


 そこへ息をきらしてアンドレーが駆け込んできた。


 「構わん、ここへ通せ」


 ヴェルナールはアンドレーに捕虜となったカトリコス勢力部隊の兵士達の管理を任せていたが、その手を止めてアンドレーは使者を伴ってヴェルナールの元へと来ていた。


 「お目通り、恐縮に御座います」

 「援軍を率いてきてくれた、という認識で間違いないか?」

 「その通りに御座います。ヴァロワの近衛兵団及び我らファビエンヌ伯の部隊合わせて四千が先遣隊として派遣されました」

 「先遣隊だということなら更なる援軍もあるとみて宜しいか?」

 「噂によればセルジュ王自ら出陣あそばされるとか……確証はありませぬが」

 「そうか、御苦労だった」


 アレクシアの使者は低身低頭、ヴェルナールにことの次第を伝えると今一度、頭を下げヴェルナールの前を辞していった。

 それから数十分、オルレアンの街にヴァロワ朝の象徴たるアイリスの紋章の旗が立てられたのだった。

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