アルフォンスvsカロリング
午後から再び始まった攻撃は、しかしヴェルナールの想像を他所に静かな立ち上がりを見せていた。
「弓箭兵、放て!」
川の中洲に向けて猛射を浴びせる。
中洲には数百の帝国兵が盾をもってとりつき、陣地を構築しようとしていた。
「随分と堅実なやり方だな」
帝国軍は、徐々に距離をつめていきある程度距離が縮まったところで後は力押しにする戦法に切り替えていた。
「距離を詰められる前に陣地は壊したい、だが壊しにいこうものなら手痛い反撃を食らうは必至、面白くないですね」
あぁ、まったくもって面白くない。
俺の言いたいことを代弁したノエルには、ため息で返した。
「で、どうするかだが嫌がらせの射撃と近距離にでのテッサリアの火の使用くらいしか思い浮かばん」
防衛陣地を築きながらの前進、もちろん飛び道具の部隊も前進させるだろうから川を挟んでの戦闘は時間が経てば経つほどにこちらの不利となるわけだ。
「故にやり方を変える。いや、変えざるを得ない」
ヴェルナールは地図の一点を指し示した。
「オルレアンですか?」
「そうだ。南岸をとる」
「南岸にはカトリコス勢力がいるのでは?」
「そのカトリコス勢力は今どうなっている?」
今まではカトリコス連中とカロリングの軍隊を合流させないよう立ち回ってきた。
だが方針を大きく転換しそれに拘るのはやめることにした。
「物資が枯渇し動けなくなっているのでは?」
「そうだ。つまりは脆弱になっているということ。少し叩けばすぐさま崩壊するさ」
「南岸をとれば川を挟まずに帝国軍と戦闘ができる、そういうことですか?」
「騎兵の活きる野戦に勝ちの目はある」
そしてプロテスタリー派の傭兵のフリをして銃が使えないなどという縛りからも解放される。
オルレアンの南岸を取ってしまえばもはやプロテスタリー民兵のフリなどしなくてもいい。
アルフォンスの正規軍としてヴァロワ軍とともに戦闘に臨むのだ。
その上、カトリコス派を支援するカロリング帝国軍の撃滅はプロテスタリー連中と利益が一致する。
上手く行けば五千の加勢が見込める。
これほど勝つための条件を揃えられるのなら、勝ちの可能性はかなり高いだろう。
「でもいいのですか?カロリングと国同士の戦争になることは明白なのですよ?」
「向こうが望んだことだ、それに本国の部隊には既に命令を出してある」
「それはどういう……?」
「有事の際はヘルベティアと共に事にあたれというものだ」
「初めから閣下は見越していたのですか?」
「ある程度は想定の範疇だった。過日の選帝侯会議で確信を得るに至った」
初めから全面戦争になることを覚悟しているならそれほど怖いものでもない。
今まで受け身での戦争しかして来なかった
そして被害者を演じ続けるのだ。
仮に爪を研ぎ続けていたとしてもな。
「もはや外交で解決する段階は過ぎた。エレオノーラの説得案に期待はしたが、それを向こうが受け入れられない以上、売られた喧嘩は買うしかあるまい」
この戦争、勝ち切らせてもらう。
そして宗派の対立だなどというくだらない鎖はここで断ち切るのだ。
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