アルフォンスvsカロリング

 「敵勢に動きあり!」


 来たか……。

 重装歩兵を先頭に立てて川面へと隊列は進んでいく。

 見事に統制の取れた動きは、流石に帝国軍といったところだ。


 「狼煙を上げろ!」


 帝国軍よりも一足早くにこの場所に到着できたことで順次出来たものがあった。

 黄色い狼煙を上げる。


 「敵先鋒、川を渡り終えます!」


 そろそろ頃合いだろうな。


 「弓箭兵は火矢を放て!」


 何としてでも川で足止めをするのだ。

 重装歩兵で矢は防げても火は防げない。

 川を渡りきった帝国軍の先鋒に向けて夥しい数の火矢が放たれる。


 「あぁっ!熱い!焼けるようだ!」

 「外套が燃えやがる!」

 「誰か、消してくれぇぇっ!」


 火矢による攻撃は見事にはまった。

 帝国軍の重装歩兵達の行軍は乱れ、そこここで大騒ぎとなった。

 それでも進軍を続ける者達も間も無く火矢による洗礼を受けることになった。

 そしてその頃、上流から何艘かの小舟が下って来るのが視界に入った。

 一見、漕ぎ手以外は誰も乗っているようには見えない船。

 その船にはそれぞれいくつもの壺が積まれていた。

 その中身は油、そして銃に使う火薬の類。

 敵にほど近い場所まで船に乗っていた漕ぎ手は、弓矢を持つと船から躊躇なく中洲へ降りた。


 「なんだ!?船が流れてきているぞ!」

 「誰も乗っていない船が!?」


 帝国兵達は視界に入った小舟の存在に気付くが時すでに遅し―――――。

 船が帝国兵の一団と接触するタイミングで漕ぎ手は火矢を放った。


 「上手く行くのですか?」


 ノエルは心配そうにその様子を見ている。

 

 「何、ものは試しだ」


 仮にこれでダメなら用意してきたもう一つの武器を使うまで。

 漕ぎ手の放った火矢が小舟の運ぶ壺の一つに命中したのか小舟は火達磨と化し、川面で立ち往生する帝国軍の中で爆ぜた。


 「ぐおぉぉっ……腕がっ!?」

 「あづいあづいあづいぃぃぃぃッ!」


 もろに爆発を食らえば致命傷は免れない。

 小舟の周囲にいた帝国兵達は痛みに悶絶した。


 「何艘かは上手くいったらしいな」

 

 流石に全部が成功するわけではないか……。

 用意した十艘の小舟のうち、成功したのは凡そ半分。

 他は状況を察した敵兵に沈められたしまったり矢の当たらなかったりとで不発に終わったらしかった。


 「敵の一部が後退して行きましたね!」

 「あぁ、だが敵もこれで出方を変えるかもしれんな」


 背を見せた敵には問答無用で矢が突き刺さる。

 勢いがこちらに傾いたわけだが決して打って出るような真似はしない。

 河原に出たら今度は俺達が敵の飛び道具による攻撃を浴びる番なのだ。


 「ノエル、テッサリアの火を用意しておけ!第二波にはそれを使う」

 「了解!」


 おそらく次の敵の攻撃はより慎重かつ狡猾なものになることは明白。

 それ故に、俺は切り札の用意をすることにした。

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