二人の芝居2

 ヴェルナールは本隊の総指揮をアンドレーに委ねると、ノエルと数十騎の護衛を連れて密かに陣を抜け出した。

 そして僅かに離れた後方に陣を構えるエレオノーラの元へと来たのだった。


 「エレオノーラ、ぞろぞろ出番だ」

 「ふむ、ならば共に参ろうか」


 エレオノーラ達の目的は、アルフォンスとカロリングとの戦争を止めることにある。

 それを知ったヴェルナールは、エレオノーラの案に便乗してそのシナリオを構築してきた。

 カトリコス勢力と合流させないように立ち回り、ロリスの街でその足を止めることに成功。

 アルフォンスとカロリングの戦争を止めるのは、まさに今をおいて他にない。

 二人に随伴する兵士達はアルフォンスとカロリング合わせて三百強の騎兵集団は一度北上してカロリング帝国軍の視界の外へと出ると大きく迂回して川沿いに東進を開始した。

 戦の気配濃厚の両者の間に割って入るような格好だった。

 そしてアルフォンスとカロリングの軍旗を高らかにはためかせる。


 「閣下、あれは!?」


 ティベリウスの傍に控えるバドリオの視界にそれは入った。


 「我が国の旗とアルフォンスの旗を掲げておるのぉ」


 全く持って予想外の展開にティベリウスやバドリオは口元にまで達していた攻撃の下知を飲み込んだ。

 向かい合う両軍のちょうど真ん中まで来たところで二カ国の旗を掲げた騎兵の集団は足を止めた。


 「双方、武器を置くのじゃ!」


 エレオノーラは帝国軍へと


 「武器をおけ!」


 ヴェルナールは、アルフォンス軍へと声の限り叫んだ。

 だが両軍が武器を置くことは無い。

 代わりに両軍から数騎の騎兵がヴェルナール達の元へと向かった。

 それぞれ軍の騎兵に対して二人はこう告げる。

 「まもなくヴァロワの国軍が到着する。ヴァロワ国軍は、国家の主権を守るべく戦闘行為も厭わない姿勢である。またアルモリカに駐留するウェセックス軍とヴァロワとの間に秘密裏の取り決めが結ばれた。それ故にヴァロワは強気の姿勢を取るだろう。戦争を回避するなら今しかない」


 二人は戦闘回避のために両方に軍を退くことを求めたのだった。

 

 「ふん、エレオノーラが戦争回避のために軍を退けと申したか」


 ティベリウスは鼻で笑った。


 「父上、どうされるのですか?」


 トンマーゾの質問にティベリウスはしばし目を瞑った。

 やがて目を見開くと眼光炯炯な眼差しでトンマーゾを見据えた。


 「儂の腹は決まったぞ。このまま対岸の敵を撃ち破りグランパルリエを目指すのじゃ!」

 「し、しかしそれでは数が足りませぬ!」


 トンマーゾは慌てふためくがティベリウスは自信に満ちていた。

 

 「なに、王位継承の揉め事の収まりもつかぬヴァロワなど、たいした兵力も動員出来まいよ」


 動員兵力四万を超えるヴァロワはしかし王位継承戦争を経て大きく弱体化していた。


 「なに安心せい。儂は勝てる戦しかせぬ。バドリオ、戦鼓を鳴らせいっ!出陣じゃ!」


 大国屈指の覇権国家の帝位に座る怪物ティベリウスがついに動き出したのだった。

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