第131話 スミス川の戦い
森林地帯を抜けてスミス川の西側へのアルフォンス軍布陣は、すぐさまエルンシュタット軍へと届いた。
そして昼前には両軍が幅僅か四十m程のスミス川を挟んで対峙した。
「閣下、ただいま戻りました」
敵情偵察に行ったノエルが息も切らさずに報告を行う。
「対岸の敵勢、四千程と思われます。二割弱が弓箭兵で構成されています。また、エルンシュタット王のいる本隊は千程で約二キロ後方に陣を構えているようです」
要点を的確に押さえたノエルの報告にヴェルナールは頷いた。
「まずは敵がひと当てしてくるのを待つのが良さそうだ」
既に数キロ上流では騎兵部隊が渡河しており、それらが本隊を奇襲するタイミングを見計らって戦闘に突入したいというのがヴェルナールの本音だった。
「銃兵、弓箭兵はいつでも射撃できるよう用意しておけ。だが斥候相手に全力は出すなよ?」
銃兵や弓箭兵の各部隊長にヴェルナールは指示を出すと敵陣の動きを注視すべく対岸を睨め据えた。
それからややあって先に動き出したのは、エルンシュタット軍だった。
「まずは威力偵察を行う」
四千の兵の指揮権を国王に渡され部隊を指揮するアインスバッハ侯だった。
彼の命令により渡河を始めたのは約五百の歩兵達。
「銃兵は撃たなくてもいい。弓箭兵は、疎らに矢を放て。だが構えるのはまだだ、まだ早い。引き付けてからにしろ」
ヴェルナールの狙いは、疎らな矢での攻撃を行うことで飛び道具が少なく僅かな弓箭兵しかいないと思わせることにあった。
二千のアルフォンス軍の眼前で、おっかなびっくり槍を構えながら川を渡り始めるエルンシュタット兵。
だが、川の中程に辿り着いても一向に飛び道具による攻撃をされることさなかった。
「よし、敵陣まで一気に走れっ!」
五百の威力偵察部隊を率いる指揮官は震える声で叫ぶと大声をあげながら駆け出した。
走り出したタイミングで、疎らに矢が飛び始めた。
「なんのこれしき、突っ込めぇぇぇ!」
さしたる脅威と感じないのか或いは自暴自棄なのか、エルンシュタット兵は川の流れに足を取られながらも懸命に走る。
だが疎らな矢による攻撃とはいえ、必中距離で放たれたそれは一矢一殺だった。
「目がッ……ぐわぁっ!」
「た、助けてくれぇ!腕が飛んでっちまったっ!」
次々と、エルンシュタット兵が水面に倒れ伏していく。
一度倒れてしまえば甲冑が重く体を起こすのに難儀して溺死する兵達もいた。
「そろそろ十分だ。退却させろ」
アインスバッハ侯は、これ以上は兵力の無駄と判断し退却の指示を出す。
退却の指示を受けた威力偵察の兵士達は、何のために川を渡ったのかと憤慨しつつも我先にと踵を返して川を走っていく。
その背中にも相変わらず疎らに放たれる矢が浴びせられた。
結局百数十の死傷者を出した威力偵察だったがこのことにアインスバッハ侯は気を良くしたのだった。
「敵はどうやら僅かな飛び道具しか持ち合わせていないらしいな。おおかた飛び道具は籠城のために温存しているのだろう」
厄介なマスケット銃を装備した部隊がいないというだけでエルンシュタット将兵達は、幾分気を楽にした。
「お前達、これは勝ち戦だ!これより弓箭兵を残す全軍で川を渡る!」
「「おぉぉぉっ!」」
昨日の勝利に続いて今日も勝てそうな戦となればエルンシュタット兵達の士気は大いに上がったのだった。
これをみてヴェルナールはニヤリと笑った。
「ノエル、部下を連れて敵陣への工作を頼めるか?」
「何をしてくればいいのですか?」
「敵の矢の備蓄を潰して来て欲しい」
「かしこまりました。直ちに!」
数十分後にエルンシュタット兵は意気揚々と渡河を行うのだが地獄を見ることになるのだった――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます