第130話 最終決戦へ
ラクセンバーグ近郊に敵軍進出の報が入ったのは翌日の昼だった。
「申し上げます、敵軍六千余りの敵軍、ベッツドルフ一帯を占拠しました!」
「そうか、ご苦労」
早朝に出した偵察部隊よりの報告を受けてノエルが地図上の駒を動かした。
「まぁ予想通りの動きですな」
トリスタンは、それほど驚いた風でもなく淡々ト と状況を確認した。
「このまま行けば昼前には戦闘が始まりそうだな」
そう言うと、「どうする?」という目線をエレオノーラとフィリップが俺に向けた。
「そうだな、ここは勝ち戦と奢る敵に先手をとる」
おぉ……と集まった指揮官たちからどよめきが漏れた。
「フィリップ、王は隊列のどの辺りにいる?」
ヴェルナールは、昨日までエルンシュタットの旗の下にいたフィリップに尋ねた。
「最後尾に後詰の部隊がいてその前にいるはずだ。昨日の時点では本隊は三千程度いたと記憶している」
「少し多いな……」
「いや、昨日の戦闘で
「おそらくそうだろうな」
壊滅した先方衆に変わりに本隊の兵を置いたのでは?というフィリップの予想にヴェルナールも同意した。
「なら、そこの一点突破を狙うのが上策じゃろうな」
「いや、それだけだと他の敵が駆け寄って来て袋叩きにあう」
エレオノーラの提案をフィリップが補足する。
「歩兵で敵の気を引き付けてから叩くのが理想だ。そうだよな、ヴェルナール?」
「フィリップの言う通りだ」
「だがエルンシュタット軍を迎え撃つのに使える軍勢は総勢でも二千五百弱、勝ち目は薄いぞ?」
フィリップは、囮となる歩兵部隊の敗北の可能性を指摘した。
だがそれを打開する手は打っておいた。
「実を言うとだな、捕虜となったベルジク兵と北プロシャ兵を臨時で雇った」
「どれぐらいなのじゃ?」
「規模で言えば八百程度だ。オレリア殿が上手くやってくれた」
ヴェルナールがそう言うとフィリップは笑った。
「あれほどの美人に頼まれて断ったとなれば男も廃る。当然と言えば当然の結果か」
「まぁ、そんなところだ」
フィリップは、チラリとエレオノーラを見た。
するとそれに気付いたエレオノーラは、
「そ、それぐらい妾にもできるわ!というか妾ならもっと集めれるのじゃ!」
と強がりを言ったがそれはスルーして話を進めていく。
「傭兵の兵力の内訳だが、騎兵百五十、歩兵四百強、弓箭兵が二百五十と充実している」
これだけの兵力を雇うのには大枚を
「これで三千三百か……兵力差はざっと二倍。やれそうな範疇なのか?」
フィリップの質問にヴェルナールはニヤリと笑う。
「ここから兵力差は、さらに減る」
「なぜだ?」
「メクレンブルク公と姉上の部隊がエルンシュタット国内を食い荒らしているからだ」
基本的にどの国家も、強力な王家に領地を保護してもらうことで成り立つ封建制度の方式をとっている。
所領が無くなれば封建制度の根幹が揺らぐ。
所領が攻められたという報告を受ければ、当然諸侯は帰還を望むだろう。
仮に帰還出来なかったとしても士気は大いに下がり、領土を守ってくれない主家に対しての不満も膨らむ。
「なるほど、エルンシュタットが本国の守備よりアルフォンス公国侵攻を優先したのは失策だったわけだ」
「だからこそ、俺たちはここで時間稼ぎをし続けなければならない」
「このラクセンバーグが火の海になったとしても戦闘は続行する」
ヴェルナールは、圧倒的劣勢でこの戦争が始まった時点で国土のある程度の荒廃は覚悟していた。
「だがなるべく避けたい事態だ。それ故に先手をうつ」
「奇襲は任せて貰えないか?」
フィリップは名乗り出た。
「最初からそのつもりだ。お前は騎兵科出身だしな。騎兵は全てフィリップとエレオノーラに預ける。トリスタン、補佐は任せるぞ?」
「御意」
心底楽しそうな表情でトリスタンは、頭を下げた。
「そうと決まれば話は早い!敵はもうすぐそこじゃ!急ぐぞ!」
エレオノーラに急かされる形で三人は軍議の場を後にした。
「我々もスミス川河畔まで進出する。支度を急げ!」
「「ははっ!」」
わずか数十分で支度を整えると騎兵六百余と歩兵二千余りがクーヴァン城より出陣したのだった。
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