第126話 フィリップvsエレオノーラ

 「二列縦隊に組みなおすのじゃ!」


 一回目の銃撃は成功したものの、二回目の成果は芳しくなかったエレオノーラは、一旦離脱し陣形を変更することにした。

 

 「さすがはフィリップ……同じ手は二度通じぬ……」


 二回目に敵の側面へ銃撃を加えようとしたところ、弓箭兵による迎撃を受けたために陣形を変更するに至った。

 正面からの銃撃であれば全速で走りつつ射撃して離脱を行えるのだが、銃騎兵百騎に対し敵は方形陣を組み弓箭兵を擁する六百と正攻法は捨てざるを得なかった。

 正面攻撃を敢行すればあっという間に全滅するとことは火を見るより明らかだった。

 それ故の側面攻撃だったがフィリップは的確に対応してきた。

 それならば戦闘経験豊富且つ練度の高いアルフォンス騎兵の強みを活かそうとエレオノーラは考えた。

 甲冑の擦れ合う音がしばらく響いた後、銃騎兵は整列し終えた。


 「二列に分かれて縦横無尽に駆け、敵に休む間を与えず攻撃し続けるのじゃ!。退却は妾に合わせよ!」


 エレオノーラが右側の列の先頭に馬をつけると剣を抜いた。


 「かかれーっ!」

 「「おぉぉぅ!」」


 既に銃騎兵は、二割弱数を減らしていたがそれでも士気は高かった。


 「後方より敵が来るぞ!弓箭兵は各個にて矢を放て!」


 フィリップを含む多くの弓箭兵が、一方向のみへの攻撃だと予想していた。

 しかしその予想は覆される。


 「敵は縦列陣形か……何を考えている?」

 

 フィリップは一方向への攻撃という想定をしつつも変更された陣形に違和感を感じていた。

 だが敵は違和感の答えが出るまで待ってはくれないと自らも弓を持ち矢を番えた。

 可能な限り敵を引き付け、確実に敵を射殺す。

 その必中距離の手前、エレオノーラ率いる騎兵部隊は、二方向にわかれた。


 「そういう事か!弓箭兵、敵は両側に回るぞ!歩兵は槍を構――――」


 フィリップの命令を破裂音がかき消していく。

 フィリップの頬に赤い筋がはしった。

 放たれた銃弾は、フィリップの頬を掠めたのだ。

 最前列を固めていた歩兵のうち十数人は、呻き声を上げて倒れ伏していた。


 「こんな時に騎兵は何をやっている!?」

 

 フィリップは、胸甲騎兵が向かった方向を睨んだがその視界に自らの胸甲騎兵は映らない。

 変わりに映ったのは、トリスタン率いる重騎兵だった。

 その姿を見て胸甲騎兵がどうなったかをフィリップは悟った。


 「弓箭兵!移動する敵を注視しろ!眼前の敵に正攻法マニュアルは通じないぞ!」


 自らの兵を叱咤激励し執拗に攻撃を加える銃騎兵に少しずつではあるが損害を与えるエマニュエル勢。

 しかしながら損失の観点から見れば後手に回りつつあるエマニュエル勢の犠牲の方が大きく戦意を喪失しはじめている。

 

 「南の方角より敵騎兵!」

 「これだけ叩かれているのにまだ新手が!?」

 「味方の騎兵連中はどこ行ったんだよ!?」


 兵達も重騎兵の出現の意味に薄らと気付き始めていた。


 「そうか……俺はエレオノーラにいいようにされたのか」


 フィリップはそう言って自嘲気味に笑った。

 そして自らの運命とヴェルナールの運命を悟った。

 ヴェルナールを助けるつもりで国王に直談判してまで行った奇襲作戦。

 しかし既に作戦は、破綻していると言ってもいい状態だ。

 このまま戦闘続行も可能ではあるが、方形陣は各所で崩れかかっており万全とは言い難い。

 兵力差も詰まりつつあり、なおも銃騎兵に流れを掴まれている状況。

 自分の出来ることは何か……フィリップは、黙って考えた。

 そして一つの結論を出した。


 「白旗を上げろ!」


 家臣に対してフィリップは、降伏するよう言った。


 「そ、それは……」

 「俺の命や家のことより、お前達の命の方が優先だ」


 困惑の表情を浮かべる家臣に対しフィリップはそう言って微笑んだ。

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