第124話 フィリップvsエレオノーラ

 「フィリップの奴、歩兵に方形陣を組ませたか……流石じゃの」


 方形陣は左右前後全てに隙がなく内側に弓箭兵や銃兵を置くことで直接敵に晒されることなく飛び道具の使用もが可能となる優れものの陣形だ。

 銃兵を用いるヴェルナールも多用するが帝国士官学校同期であるフィリップも愛用する陣形だった。


 「騎兵部隊は、敵の騎兵を優先的に叩け!銃兵は指揮官階級の者を優先的に狙い撃つのじゃ!」


 敵に対策されたのなら対策し返せばいいのだとエレオノーラは落ち着いて対処するべく指示を出した。

 フィリップが最大の突破力として頼る胸甲騎兵を先に潰してしまおうという算段である。

 

 「全騎、敵の銃兵を引き付けて走れ!」


 エマニュエルの胸甲騎兵が地面を蹴り出す。

 それに合わせて動き出すアルフォンス騎兵。

 

 「敵は横隊突撃のようですな。ここは無理に受け止めず突撃を避けましょう」


 いかにアルフォンスの騎兵が精鋭とはいえ、エマニュエル伯爵家の誇る胸甲騎兵もまた精鋭だった。

 一時期はアルフォンスを支援するためにブリジットが率いていたことで、アルフォンスの多くの兵士はその力の度合いを知っていた。


 「そんなに強いのか?」

 「はい。なので避けた後、その背中を狙うのが良策かと」


 損害を減らすためにトリスタンは、騎兵が向きを変えるのに際して出来てしまう隙を狙えば良いのでは?と提案した。


 「確かにお主の言う通りかもしれない」


 自ら騎兵を率いた経験を持つ二人は、意見の一致をみるとすぐさま行動へと移した。


 「お前達、敵勢が迫ったら進路を開けてやれ。その背中にくらいつけるよう向きも変えておくのじゃ!」


 エレオノーラの指示で騎兵が敵前で背を向けるという常識的には理解し難い行動をとった。


 「悟られたか!?」

 

 その動きを見てフィリップも気付く。

これが罠だと。


 「いかん、呼び戻せ!」


 アルフォンス軍へと駆けていく胸甲騎兵の背へと叫んだが既に遅かった。


 「「「うおぉぉぉぉぉっ!」」」


 喚声とともに突撃する胸甲騎兵が近づくと、散発的に銃声が響いた方思えばアルフォンス勢は左右へと別れて胸甲騎兵の進路を開けた。


 「なっ!?どういうことだ!敵が背中を向けて分かれて行ったぞ!」

 「我らは寡兵、分かれるは下策ぞ!」

 「ならば、どちらを追うべきか!?」


 予想外の事態に対応出来ないまま、逆に胸甲騎兵の側が背中を敵に見せることとなった。


 「ちっ……全軍、走れ!」


 面白くない事態になったと舌打ちをしながら胸甲騎兵との距離を詰めるべく方形陣を維持したまま走り出した。

 しかしエレオノーラはそれを逃さない。


 「トリスタン殿、敵の騎兵を頼む!妾は動き出した敵に対応する!銃騎兵、続け!」


 エレオノーラが、移動中で隙を見せる方形陣の側面に攻撃を加えんと百の銃騎兵を伴って走り出した。


 「よいか、すれ違いざまに銃を放て!」


 背中を取られたことで逃亡に移った胸甲騎兵と合流しようと走る方形陣の歩兵達。

 戦場は四個の集団に分けれて動き出した。


 「敵騎兵来ます!」

 「対応が早い!?とにかく前衛は槍を構えろ!そして弓箭兵は迎撃しろ!」


 よく練兵されたフィリップの兵達は駆けたまま命令に従い動く。


 「弓箭兵、放てぇっ!」


 およそ百余りの弓箭兵が正面から駆けてくるエレオノーラ麾下の騎兵に対して矢を放った。


 「お主たち、左斜め前方に変針!こちらから見て敵の左側面を狙う!」

 「「「おうっ」」」


 敵の動きに対応する形で矢を回避した。

 正面突撃は先に敵に矢を射らせるためのブラフだったのだ。

 

 「矢を射らせたとでも言うのか!?右備え、槍を構えよ!」


 今度は方形陣の進行方向右側側面の兵士達が槍を構えた。


 「よし、敵の側面だ!減速して各個にて射撃!そのまま敵後方へ離脱する!」


 散発的な銃声が響き紫煙が立ち上がった。


 「それが狙いか!?」


 突如として浴びせられる通り魔のような攻撃。

 敵を指揮する者は誰なのかとフィリップは、右側に来たアルフォンス騎兵を睨め吸えた。

 そして言葉を失うと共に得心がいく。

 風に蜂蜜色のロングヘアを棚引かせる女性の顔はよく知る人物のものだったのだ。


 「ハハ、エレオノーラ……君だったのか」


 どういう理由でアルフォンス兵を率いているのかは分からなかったが、フィリップはエレオノーラが騎兵を指揮しているのだと知ると眦を決したのだった。


 「君とは親友だが、戦争ではそれも関係ないな。全力を尽くさせてもらう!」


 立場は違えど親友であるヴェルナールのために互いをよく知るエレオノーラとフィリップは対峙するのだった。

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