第111話 セルジュの一計

 「ヴェルナール殿からの援軍要請ですか……」


 大広間に集めた家臣達を前にセルジュは、渋面を浮かべていた。


 「私が即位するにあたり彼に助けて貰ったのは事実。しかしながら、今の我が国に援軍を出す程の余裕がない……困りました」

 

 ヴァロワ朝の王位継承権を巡る戦いは、セルジュが最終局面のグラン・パルリエ攻防戦において勝利したことにより終結していたはずだった。

 負けた第三皇子は、潔く負けを認めると母方のサヴォワ公国を頼って落ち延び、一方の第一皇子シャルルは、あろうことかヒスパーニャ王国の助力を得て未だに抵抗を続けていた。

 それだけでなく城塞都市カルカッソンヌを首都としカルカッソンヌ王国と勝手に名乗る始末だった。

 内戦の後始末で新興貴族ばかりとなったヴァロワ朝は軍勢が集まりにくく、さらに戦争の経験がない者がさらに増えたために山地で巧みに防衛を行うシャルル陣営の軍隊に手を焼いている。

 国境を接する、ヒスパーニャ王国やウェセックス連合王国の存在もあるがために、兵力には余裕がなかった。


 「新しい敵を作ることになるような行為は、差し控えるべきかと!」

 「そうだ!仮にも我々がエルンシュタットとアルフォンスの争いに一枚噛んでいたことが露見すれば、連中の次なる矛先は我らに向くぞ!」


 居合わせる諸侯も、やっと得た安寧を失うのは嫌だと猛反発。

 これには如何にセルジュが国王であると言えども、ヴァロワ朝として援軍を出すことを諦めた。

 そして一計を案じた。


 「ファビエンヌ伯、あなたをこれよりアルフォンスが戦争を行う間、独立させます」


 ヴェルナールの実姉であるファビエンヌ伯アレクシアの領土を一時的にヴァロワ朝から独立させることにしたのだった。


 「まことですか!?」


 アレクシア本人が驚き聞き返すと


 「今日より、ファビエンヌ伯の領土はファビエンヌ伯国として独立することを命じます。ただし、貴方は私の国家運営の屋台骨でもありますから、早く戻って来てください」


 セルジュは、そう言い添えた。

 あくまでもヴァロワ朝としてでの協力ではなく、ファビエンヌ伯国としての協力という形にしたのだった。


 「加えて、妹にも同行してもらいます。いいですね?」

 「王命とあらば」


 セルジュのいる上座の端出話を聞いていたオレリアがそっと頭を下げる。


 「オレリアは、将来的にヴェルナール殿の元に嫁がせるかも知れません。その目で良く人となりを見てくるように」

 

 これくらいしか出来なくて申し訳ない、と小声でセルジュは言うのだった。

 オレリアをアレクシアと共にアルフォンス公国に向かわせるのは、ヴァロワ朝ばアルフォンス公国と共にあるのだというセルジュのせめてもの意思表示だった。


 「ではファビエンヌ伯、直ちにこの場から去りヴェルナール殿を助けてください」


 セルジュがそう言って話を纏めると


 「格別の配慮に感謝致します」


 アレクシアは深く頭を下げるのだった。

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