第91話 ヴェルナールの罠

 ヴェルナールは七百の騎兵を率いてと丘から野外劇場へ向かう大通りへ出ると応援に来る敵部隊を迎え撃つ用意を始めた。

 

 「トリスタン、坂が終わって道が平坦になる場所辺りから各通り毎に銃騎兵を配置させておけ」

 「御意」


 傾斜部が終わり道が平坦になると大通りに対して何本かの通りが交差していた。

 サン・ジュスト城は、防衛の観点から丘上の城へと続く道の数を減らして設計されていた。

 確かに攻める側は、攻撃場所が絞られ落としずらい城ではある。

 それをヴェルナールは逆手に取ったのだった。

 攻めるために通れる道が少ないということは、城から出てくる側の通り道の予測も容易だということだ。

 まして相手は物資を取られた状態で焦っているから最短ルートであるこの大通りを通るはずだと考えていた。


 「銃騎兵の配置が完了しました」

 「ご苦労。トリスタンは、騎士団の半数を率いて銃騎兵のサポートを頼む」


 交差する各通り毎に少数ずつ配置した銃騎兵を支援するために重騎兵の半数を割いたのだ。


 「しかし、それでは本隊が手薄になるのでは?」


 トリスタンはヴェルナールの身を案じるが、ヴェルナールはニコッと笑って


 「それなら俺に指一本触れさせないよう頑張ってくれ」


 こう言ってのけた。


 「それは、もっともですな」


 トリスタンは笑い出すと周りの兵士達もつられて笑い出した。

 激戦を続けてきた彼らに過度な気負いは無かった。

 

 ◆◇◆◇


 ロートシルトは手隙の軍勢千余に野外劇場の支援を命じた。

 四千の兵はいても二千はアオスタ公への抑えとして割いている以上、出せる兵には限界があった。


 「この坂を下りれば、劇場だ!急げっ!」


 騎兵も歩兵も武具の擦れる音を鳴らしながら、坂を駆け下りていく。

 そして戦闘をゆく兵士達が坂を下りきって平坦になった部分へと差し掛かる。


 「敵はあの程度の寡兵だ!押し潰してしまえっ!」


 部隊長に叱咤されながら僅か二百の騎兵で道を塞ぐヴェルナール達へと距離を縮めていく。

 しかし、その隊列の中央が坂を下りたところで異変は起きた。

 ズダダーン、ズダダーン!

 突如響く破裂音と漂う紫煙――――。

 ヴェルナールの仕掛けた罠に獲物がかかった瞬間だった。


 「は、腹が熱いッ!?」

 「痛い痛いぃぃっ!」


 どこからともなく横合いから彼らは撃たれたのだ。

 

 「て、敵は何処いずこ!?」

 

 銃騎兵がいる通りを過ぎたところで異変に気づいた者には、敵の姿は見えず事態が把握出来ない。

 

 「敵は十字路の左右にいるぞ!一旦止まれぇっ!」

 「止まっては、敵に狙い撃たれるぞ!足を止めるな!」


 相反する二通りの命令に兵士達は、その場で右往左往することしかできない。

 そこへそのタイミングを好機と判断したトリスタンが重騎兵で突撃をかける。


 「き、騎兵だっ!」

 「来るな来るな来るなぁぁぁぁっ!」


 槍衾も構築できず、その馬蹄にかけられた。

 そしてトリスタンは、効果を十分得られたと判断すると潮が引くように兵を下げた。

 すると城から出てきた兵達の意識が左右に向いたと判断すると今度は、


 「押し出せ!」


 ヴェルナールの率いる二百の騎兵が敵へと突貫する。

 たまらず後ろへと逃げ出す敵兵は、十字路に差し掛かって銃騎兵の餌食となる。

 動けば殺られ、止まっても殺られる。

 八方塞がりの中、野外劇場の味方を救援に来た千余の兵士達は通りに屍の山を築くのだった。

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