第42話 スヴェーア騎兵vs同盟軍

 三千の兵力で二千五百騎による騎兵突撃の矢面に立たされたベルジク軍は、ボードゥヴァンの指揮で辛うじて持ち堪えていた。

 既に損害は目も当てられないほどに膨れ上がっているだろう。

 少なくとも五割近くは使いものになっていないに違いない。

 だが衝撃力に優れるスヴェーア騎兵も、攻撃開始時ほどの勢いは無い。

それに加えて衝撃から立ち直りつつあるベルジク軍は、徐々に態勢を整え始めている。

 そろそろスヴェーア騎兵も頃合いと判断して退くだろうな。

 だが、ここで退却させては停戦の材料にはなり得ない。

 我々が成すべきは、スヴェーア騎兵の殲滅だ。


 「アルフォンス公、行かなくても良いのですか?」


 合流してきた北プロシャ選帝侯の騎兵部隊を預かる指揮官が言った。

 

 「いやなに、再集結するのに存外時間が掛かってしまってな」

 「そうですか……」


 ユトランド評議会陣営という共助を目的とした枠組みに参加している我々には、間違っても味方の危機に際して傍観していたなどという事実があってはならない。

 ベルジク軍が攻撃を受け始めてから今に至るまでの時間、あくまでも俺は自軍の態勢が整うのを待っていただけなのだ。


 「トリスタン、用意はいいか?」

 「ただ今、整いましてございます」


 トリスタンは俺の心中を察した答えを返してくれる。


 「そういうことだ、ならば参ろう」


 疑わしそうな目を向けた北プロシャ選帝侯の騎兵部隊指揮官にそう言うと俺は、愛馬タナトスに跨った。


 「全隊、敵騎兵共の退路を立て!」

 「「おぉぉぅ!」」


 ベルジク軍兵を減らすことからスヴェーア騎兵の全滅へと目標を切り替える。

 本音を言えば、ボードゥヴァンが傷を負うくらいのところまでスヴェーア騎兵には攻めさせたいが同盟軍という立場上、見殺しにすることは出来ない。

 予想以上に粘ったな……ボードゥヴァン。


 「トリスタン敵の数は?」

 「先程、出した物見の報告では千八百程度かと」


 二千五百騎が千八百騎のまで減ったか……こちらは八百騎、キツいが何とかやれそうだな。

 

 「とりあえずホランドの騎兵部隊に支援要請を送れ!」

 「御意!」


 敵に向かって突撃しつつも、トリスタンは部下のうち二人を選ぶとホランド軍の元へと走らせた。


 「名のある騎士の見受けるが手合わせ願いたい!」


 こちらの突撃に気付いたスヴェーア騎兵の一人がこちらへと駆けてきた。

 チッ……一騎打ちの申し出か……。


 「悪いが貴殿に構っている余裕は無い」


 ここで、もたつくわけにはいかないのだ。

 すれ違いざまにそう言うと剣を走らせた。


 「笑止千万……ッ!」


 剣は深々と脇腹を抉る。

 スヴェーア騎士は、絶命の間際にそう言うと鮮血を吹き上げ落馬した。

 悪いが騎士道精神じゃあ飯は食えないんだよ。

 昔会ったシュヴィーツ国の傭兵がそんなことを言っていたのを思い出した。

 

 「敵騎兵を通すな!退路を確保しろぉぉっ!」


 スヴェーア騎兵も、俺達との距離が詰まっていることに気付くと時間稼ぎの騎兵部隊を投入してきた。


 「馬速を落とすな!接敵機会は一瞬、一刀の元に斬り伏せろ!」

 

 捨て身の突撃を仕掛けてくる敵騎兵は、僅かに二百騎。

 こちらの四分の一に過ぎない。

 一回の渡り合いで勝負は付くだろうな。


 「「うぉぉぉぉぉぉっ!」」


 馬上槍を突き出し突貫するスヴェーア騎兵は死にものぐるいだ。

 槍の軸線を剣で払って逸らし払った剣を返して空いた胸部を薙で斬りにする。 

 或いは、馬上で槍の突きや払いを躱して喉を突く。

 自らを鼓舞する喚声は、瞬く間に痛みに震える絶叫へと変わった。

 捨て駒となった敵部隊を突破するとすぐ近くには敵の本隊の姿を捉えた。

 前にはベルジク軍、後方からはアルフォンスと北プロシャ選帝侯の騎兵部隊に挟まれる格好になったスヴェーア騎兵に脱出可能な場所はない。

 左右に逃れようとすれば、側面から突かれる格好になるため逃げる訳にもいかないのだ。

 加えて半数がベルジク軍を、残りの半数がこちらの相手をすると考えても時間稼ぎに割いた二百騎を失った敵に対してこちらは数で有利だ。


 「我々は数で有利だ!一気に押しつぶせるぞ!」

 「「おぉぉぉぉぉ」」

 

 数的優位に立ったという事実に味方の士気は上がる一方だ。

 

 「そ、側面から逃げるぞ!」

 「ま、待て!側面にも敵がいないか!?」


 多少の犠牲を払ってでも側面から逃げることを選んだスヴェーア騎兵に襲いかかる新たな脅威―――――。

 東西両側から近づく怒濤のような地響きに目をやると白毛馬と青の甲冑で統一された騎兵部隊が来ていた。

 

 「真打は遅れて登場か?」


 ホランド騎兵が姿を現したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る