第2話 奇妙なパーティー

「起きなさい」


 ルビーに起こされて僕は車から降りた。目隠しを取られて眩しい光が目に飛び込んでくる。

 周りを見渡すと海を見下ろせる高台にいた。


「ここは?」

「今からあなたには、そこにある洋館に潜入して、ある情報を取ってきてもらいたいの」


 ルビーが指さした方を見るとレンガ造りの洋館が建っていた。


 青い三角屋根にオレンジ色のレンガの壁。どこか古ぼけた感じのする雰囲気を漂わせている。


「情報って?」

「それは言えないわ。あなたは黙って行動すればいいの」

「あ、はい」


 ルビーは車のドアを開けた。


「そこにある着ぐるみに着替えて」


 僕は車の中を覗き込んだ。そこにはネコの着ぐるみらしきものが置いてあった。


「あれに着替えるんですか?」

「そうよ、早くして」


 僕は言われるがままネコの着ぐるみに着替えた。それは着ぐるみパジャマみたいに気軽に着用できて、手はネコの手袋。足はネコの靴みたいに別パーツになっている。顔の部分は顔が隠れるようにしっかりとした物になっていた。


「これでいいですか?」


 ルビーは上から下、下から上へ目を移動させた。


「いいわ」


 そのあと懐から手紙らしきものを取り出すと僕に差し向けた。


「招待券よ。これを持って、あの洋館に行ってちょうだい」


 僕は招待券を受け取った。


「あのー情報を取ってくるって、どうやって?」

「大丈夫、こっちで指示するから」

「指示って、どうやって?」

「鈍いわねぇ」


 そう言うと、ルビーは自分の手のひらを指でポンポンと叩いた。


「あ!」


 僕は自分の手のひらを3秒間押した。すると目の前に文字が浮かび上がった。公園で見たときと一緒の文字が映っている。


「あなた寝てたでしょ、車で」

「え? はい」

「寝ると消えるから、その画面は、だから再び手を3秒間押して点けるのよ」

「へー、寝ると消えるんですね。あ! 着ぐるみの上からでも作動するんですね」


 ルビーはうざったそうに自分の髪をかき上げると面倒くさそうに言った。


「ごたくはいいから、早く行きなさい」


 僕はわけも分からず洋館の玄関前まで小走りで向かった。


 ……仮装パーティーでもするのかな?

 

 玄関に着いてみると、僕は扉の脇についている呼び鈴を鳴らした。

 (カーンコーン)と室内で音が鳴っている。


 しばらくするとドアが開いた。トリの着ぐるみを着た人が半分ほどドアを開けて現れた。僕よりも背が高い印象だ。


「どちら様で?」


 凛々しい男性の声がトリの口元から聞こえてきた。


「あのーこれを」


 僕は招待券を見せた。トリは招待券を受け取ると、まじまじと見つめてから言った。


「お待ちしておりました、どうぞ中にお入りください」


 僕は歓迎されるように中に入った。白く広い廊下が前と左に続いていた。前に続いている廊下の左側の壁には両開きのドアが。廊下を挟んだその向かい側の壁には片開きのドアが何個かあった。


 全体的に白を基調としている。ドア、壁、床、どれも白色だった。


「さあ、こちらへ、皆さまがお集まりになっています」


 トリは僕を一室へと招いた。そして、そのドアを開けると、僕と同じような様々な動物の着ぐるみを着た人たちがいた。


 イヌ、ウサギ、リス、クマ、トラ、ヒツジ、ネズミが、席に腰かけて談笑をしていた。僕は部屋に入って行くとウサギが僕に気づいて席を立った。


「あ! あなたネコさん」


 ウサギは若い女性っぽい声をしている。


「ああ、はい」

「わたしウサギっていうの。さあ、そこに座って」


 陽気な感じの雰囲気で彼女は僕を誘う。顔が見えないから声だけで判断するしかない。僕は席についた。テーブルの上には、1本の太いローソクを囲むように飲み物や食べ物が載っていた。


 周りを見回すと、ガヤガヤと何かをうれしそうに話し合っている。前の方には壇上があった。白い床が一段上がった感じだ。


 僕は隣に座っているウサギに聞いた。


「あの、ウサギさん」

「はい」

「ここは、いったい何の集まりなんですか?」


 ウサギは一瞬止まると、おかしそうに笑って答えた。


「あははは、何を言っているの。ここは着ぐるみパーティーするところよ」

「きぐるみぱーてぃー?」


 着ぐるみパーティーで何かの情報を取ってくること。これが僕に与えらえた使命?。


「あなたもネコの着ぐるみ着ているじゃない、まったく」

「あ、そうですね」


 ルビーが指示を出すって言ってたけど、いつ出すんだ?


「もしかして、あなた初めてなの? 着ぐるみパーティー」

「ええ、そうです」

「じゃあ、説明してあげる」


 ウサギが言うには、この着ぐるみで一人ひとり芸をやっていくらしい、そして一番面白かったら、この主催者の権限で賞金がもらえるということ。


「芸ですか?」

「うん、その着ぐるみに合わせたことをやるの」


 僕は生まれてこの方、芸をやったことがない。何をやれってんだ。


 ウサギは長いストローでジュースを飲んでいる。僕も目の前に出されているジュースを長いストローで飲んだ。

 

 各々が目の前に出されている料理を長いフォークを使って食べていた。

 ウサギは長いフォークで鶏肉みたいなものを頬張っていた。


「あの、ウサギさん」

「ん? ……なに?」

「ここに居る人たちって、素顔とか見せないで着ぐるみのままこの会場に来た人たちなんですか?」

「うん、そうよ。着ぐるみのままここに来ているわ。みんな」

「自己紹介とかってしたりは?」

「それは、しない決まりなの」

「しない? お互いの名前を言ったりしないんですか? 住んでる場所とか」

「そう、基本的にね。本名とか住所は言わない決まり。だって個人情報だもん。だから着ている動物の名前で呼び合うのよ」

「へぇー、そうなんですか」


 ウサギはまた長フォークで料理を食べた。

 僕の目に映るのは、ウサギの着ぐるみをした人を見ると名前ウサギと表示されていた。


 そのとき、突然照明が消えた。辺りに暗闇が広がる。ローソクのオレンジ色の火だけがゆらゆらと光りを出していた。


「え? 停電」

「ああ、大丈夫よ。催しが始まるだけだから」


 ウサギがうれしそうに言う。ガヤガヤしていた会場が静寂に包まれた。

 暗闇の中で、会場の前の方にスポットライトが一筋差し込んだ。そこにシカの着ぐるみを着た人物が現れて話し始めた。


「えー、本日は着ぐるみパーティーに参加していただき誠にありがとうございます」


 誠実そうな男の声が会場中に響く。シカは一礼して続けた。


「これより、皆さまに芸を披露していただきたいと思います」


 周りはざわざわと言葉を発していた。


「そこで一番面白かった人は、この主催者である、ライオンさまから素敵な商品をお渡しいたします。商品の内容につきましてはシークレットにさせていただきます。それでは主催者ライオンさまからのご挨拶です」


 シカは速やかに脇へ消えていった。それからライオンの着ぐるみを着た人物が現れた。そのままスポットライトまで来て話し出した。


「どうも、主催者のライオンですわ」


 ライオンの口から女性の高い声が聞こえてきた。耳がキーンとなるような高い声だ。


「本日このパーティーにお集まりいただきありがとうございます。わたくしを楽しませたり、笑わせたりしてくださいませ」


 ライオンは軽く会釈をしてから続けた。


「それでは、皆さまがんばってくださいね」


 そう言ってライオンは壇上を下りた。


「では、1番目のお方」


 シカがそう言うとネズミが壇上に上がってきた。ネズミは一呼吸したあと、クルクルと自分のしっぽを追いかけるように回りだした。


「ネズミ花火ー!」


 少女の声がネズミから響いた。辺りはしーんとなっていた。ネズミは一礼してそのまま速やかに壇上を下りて行った。


 僕は隣でクスクスと笑っているウサギに聞いた。


「あのう、あんな感じでいいの?」

「ふふ、うん、そうよ。何でもいいの」

「続きまして、2番目のお方どうぞ」


 イヌが壇上へ上がった。イヌはサッカーボールほどの大きさの白いボールを持っていて、それを使い始めた。


 イヌはそのボールを床に置くと、それに乗り始めた。ボールに両足を乗せてバランスを取っている。プルプルと小刻みに体が震えている。次の瞬間イヌは転び、ボールは天井に当たって、跳ね返って来たボールがイヌの頭に当たった。


 イヌはわけが分からないと言ったように会場へ向けて言った。


「いやー転んじゃったワン!」


 少年の声がイヌの口から響いた。そのあと、一礼して壇上から下りて行った。


 パタパタと手を叩く音がチラホラ聞こえてきた。

 ウサギはクスクスと笑っている。僕はウサギに聞いた。


「そんなに面白いですか?」

「ええ、ほんとに」

「あのー番号を呼ばれてますけど。僕は何番ですかね」

「ああ、そこにあるでしょ。紙が、その紙に書いてあるわ」


 彼女はテーブルの上を指さした。よく見るとテーブルの上には小さな正方形の紙が裏返しで置いてある。僕はそれを摘まみ上げて、ローソクの光に照らしてそこに書いてある数字を見た。


 【8】と書かれていた。


「続きまして、3番目のお方どうぞ」


 そうして、出てきたのはクマの着ぐるみを着た人物だった。


 クマは青いバケツを持っていた。そのバケツを置くと、クマはあぐらをかいて、バケツの中に手を入れた。グルグルとかき回している。それからピタッと止まり言った。


「サンマがなーーい!」


 男の太い声が聞こえてきた。

 しーんと場内が一瞬しずかになった。それからさざ波のように場内はざわついた。


 そのように、次々と着ぐるみを着た人たちは芸を見せていった。


 僕は緊張のため、それ以降の人たちの芸を見ずに声だけを聴いていた。


 リスは女性でどこかたどたどしい雰囲気を感じる。

 ウサギはさっき話してたような陽気な感じ。

 トラは男性で強気な感じ。

 ヒツジは女性で柔らかい物言いをしている。


「いやー盛り上がって来ました。続きまして、おーっと、もうラストですねー。8番目のお方どうぞ!」


 そして僕の番が来た。

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