熱き鋼のジョシュア

「けっ! バカ共が!」


 ジョシュアは掲げた片手を雑に振るい、男達を地面に放り投げた。解放された三人組は大きく息を吸うと、そのまま地面の上で震え出した。


「ずいぶん静かになったなぁ~。一体さっきまで何を考えてノウィンに喧嘩を売ってたんだぁ?」


「べ、別にあんたに喧嘩売ってた訳じゃ……」


 男がもごもごと反論するが、ジョシュアはそれに割り込んで間近に顔を突き合わせる。


「てめえらをいちいち黙らせにいくほどこっちも暇じゃねえ。いいか、だ。もしもお前らがこの先もまだ静かにならねえようなら、で完全に黙らせにいく」


 先ほどの全てを吹き飛ばすような怒声と違い、その声音は酷く冷たく芯に響くものであった。三人は息の苦しさで既に青くなっていた顔を更に青くさせ、ろれつの回らない悲鳴を上げながらドタバタとその場から立ち去って行った。


「たく、逃げるくらいなら端からずっと逃げ続けてろや」


 立ち去る三人を見送るジョシュア。そして彼は次にこちらへと向き直った。


もノウィンに帰って来ていたとはなぁ~。久しぶりじゃねえか、なあライトよぉー」


 マリアと似たような事を言う。だが目の前のこいつは最初から追放した人間としての態度だ。

 

「……お前が待ってなけりゃもっと気分が良かったけどな、ジョシュア」


 こちらが言葉を返すと、向こうはフンと鼻を鳴らした。


「そういう事を言うなら俺より早く来た上で言うんだな。まあノウィンに戻ってきた事だけは褒めてやる」


 ついでのように言い、そしてこちらの事をじろりと睨む。


「だがてめえは噴水で打ちのめされていた頃から何も変わってねえみてえだなあ。あいつが死んだからってその事ばかり考えて動けねえでいるのか? あんなやつらを軽くひねる程度の事もお前一人じゃできねえってか?」


 ざわざわと嫌な汗が出るような感覚、頭に血が上るような感覚が同時に襲ってくる。事情を全く知らず、好き勝手に何を言ってやがる。軽くひねるって、ノウィンの村民をか? 人殺しの僕がか?


「貴様に何が解る! ステラが死んだって事がどういう事なのかも解らないからそんな風に言えるんだ! 僕は僕の全てを捧げるためにこの村に来ているんだぞ!」


 それは身勝手な怒りだった。ジョシュアが全てを知っていたのならむしろ怒るべきは彼の側であり、僕にその資格などは全くないだろう。なのに僕はその怒りを止める事ができなかった。今すぐこいつをぶん殴ってやりたい、怒りのままに胸の内の複雑な感情を全てこいつに押し付けてやりたい。そんな殴る資格もない人間特有の矛盾を孕んだ感覚が僕を突き動かしていた。


 そしてジョシュアはそんな僕を見て余裕そうににやりと笑う。


「へ、ご苦労なこったな。そうやって勇ましく吠えるなら冒険者らしくノウィンのために成果を出してもらおうか?」


「言われなくてもそのつもりだ! 貴様なんかとは比べ物にならない僕の冒険者としての実力を見せてやる!」


 僕への態度を改めないジョシュアに対して、僕は一歩も引かずに啖呵を切った。そして奴は僕の大言を聞いてくつくつと笑う。


「無能のてめーがどこまでやれるか見せてもらおうじゃねーか」


 そう言い、ジョシュアは踵を返して去っていった。


 多くの村民たちの前で大っぴらに交わされた己の力を示す言葉。それが大言壮語で終わるか終わらないか、狭い村の内ではすぐに広まるだろう。今ここに、冒険者としてのプライドを掛けた因縁の勝負が幕を開けたのであった。



 ━━しかし勇んで喧嘩を買ってしまった訳だが、冷静に考えると僕は冒険者ではなく診療所でヒーラーをやっている。

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