いいぞ!肉と金だ!

 あれから天使のモニエルは順調に冒険者として仕事をし始めた。彼女のおかげで僕が外に出て働かずにずっと過去を嘆く事のできるシステムが構築されたのである。


「お待たせしました、串焼き肉とお金です! 遅くなって申し訳ありません!」


 あの日大量の串焼き肉を持ってモニエルが帰ってきたのは夜も更けた頃だった。依頼自体は昼に達成し終わっていたのだが、即日支払われないダンジョン討伐の依頼を受けてしまったために報告後にまた別の依頼を受けにいっていたそうだ。


「その量で大丈夫でしたかね? 一応店の人に昼から何も食べていない人のためにどれくらい買えばいいのかを聞きましたが」


 地上の天使は聖の魔力のみを原動力に生きていけるらしい。アホみたいに湧いてくる聖の魔力をモニエルに提供し、モニエルは精力的に仕事に励む。かつてないほどに美しいwinwinの関係であった。


 とにかく毎日モニエルを仕事に出せば金が溜まるので、完成された不労所得であると言える。彼女を呼び出してもう一週間が経ったが、何も問題なく物事は回っていた。



「ただいま戻りました! ふふふ、最近町に来たって言ったら青果店の奥さんが一個おまけしてくれましたよ。この町は良い人が多いのですね」


 地上での新生活にモニエルはそれなりに楽しそうだ。本来なら天使の召喚なんていうものは一時的に力を借りる程度の用法が基本であるため、今回のように何日間もずっと呼ばれっぱなしというのは異例らしい。


「今日はオーク級のダンジョンを討伐してDランクパーティに昇格できました。ソロでDまで行くのは珍しいって受付さんがほめてくださったんですよ!」


「ふーん」


 天使にどれぐらいの実力があるのかはわからなかったが、少なくとも一人でDランクパーティ並の仕事はできるらしい。このまま順調に行けば一か月もしない間に書店への弁償金は払えるだろう。あともう何体か召喚できたら億万長者にもなれるかもな。(二体以上召喚しようとしても応じてくれないが)


「それと、Cランクパーティの方々に勧誘されたのですが……単にお金を稼ぐ目的ならば実力の近い方々と協力して依頼を受けた方がよいですかね? 自分では判断が付かなかったので保留にしておきましたが」


「その手の誘いは全て断ってくれ。いちいち身元を詮索されるのは面倒だ」


「わかりました」


 頷くその顔はやや寂しそうに見える。ずっとソロでやってきた身として、パーティでの活動というものに興味が出てきていたのだろう。その気持ちはわからないでもないが、どうせパーティなんて追放されるものだし最初からソロでも良いだろう。


「ところで……これはギルドの事とは関係のない話なのですが」


「ん?」


 少しためらいがちに話を切り出すモニエル。


「ライトさんは家の中でずっと何をやってらっしゃるのでしょうか」


「別に何も」


 雑に率直に答え過ぎてしまったためか、理解できないものを見る目でモニエルがこちらの顔を覗いてくる。別に本当に何もしていない訳じゃなくてただ過去の罪に雁字搦めにされて動けないだけなのだが、言ったところで伝わりはしないだろう。


「とにかく、これは必要な事なんだ。君はこれからも引き続き家に金を入れてくれたまえ」


「はあ」


 最初に彼女を呼んだ時の僕みたいにすっとぼけたような返事を返され、やられる側に立つとややイラっとするものだという事を理解する。なんなら一発くらい殴ってやろうか、力の強さも200だし。


「まあ私は魔力さえ供給され続けていれば文句はないのですけどね」


 納得はしていない様子だが、彼女もプロの天使であるらしく召喚主の言うことにそこまで口を挟んでは来ないようだ。

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