閑話 ネロのいなくなった勇者パーティー後編

 ガイ達は魔獣との戦いを続けていた。だが魔獣は首を撥ねても再生する。


 しかも――


「くそ! 切った頭まで魔物に変わってやがる!」


 ガイは首を切り続ければいずれは力尽きるだろうと考えていた。故に何度も何度も首を撥ねた。だがただ頭が再生するだけではなく、切り落とされた頭が狼の魔物に変化していく。


「こっちの魔物は魔獣ほどじゃないけど、増えると厄介ね。だったら一気に片付けるわ」


 フィアが群れになった魔物を睥睨しながら杖を構えた。


「爆魔法・鳳戦爆火!」


 フィアの魔法で増えた狼の中心地が爆発。更に種が広がるように火球がばら撒かれ爆発が連鎖していった。


 増えた魔物が爆破に巻き込まれる中、ツインラースウルフだけが大きく飛び退き、威嚇するようにうなり続ける。


「これで増えた分は倒したわ」

「だけど、問題は肝心の魔獣ですよ」

「わ~ってるよ……だけどあいつ――試して見るか。勇魔法・大地剣!」

 

 勇者の紋章を持つものは勇者の武芸の他、勇者属性の魔法も扱える。ガイの魔法によって大地から巨大な剣が飛び出した。


 それは魔獣の真横に出現し、そのまま相手の首を切り落とそうと傾倒する。


「馬鹿ガイ! 首を落としてもまた増えるだけよ!」

「いや――」


 ガイはしっかりと見ていた。ツインラースウルフが魔法を避けるのを。それはさっきのフィアの魔法にしてもそうだった。魔法に弱いという類ではなく――ガイが確信を持ったように叫ぶ。


「やっぱそうだ。あの魔獣おそらくあの首を同時に切れば片付く!」


 ガイがそう察し、そしてフィアに命じた。


「同時にやるぞ。お前は左! 俺は右だ! セレナは魔法で支援頼むぜ!」

「わ、わかったわよ!」

「わかりました!」


 言うが早いかガイが飛び出し声を張り上げる。


「武芸・勇心撃!」


 ガイの剣が光り輝き伸びた。勇気を一点に集中させ一撃の威力を高める。それが勇心撃だ。


 ただしこの技は決死の覚悟を持って放たなければ威力は損なわれる。


「爆魔法・爆裂球!」

「生魔法・延命!」


 フィアも魔法を行使。巨大は火球が轟々と唸りを上げながら左の首に迫る。そして飛び出たガイはセレナの魔法によって淡く輝く。延命は生命力を一時的に延ばす魔法だ。


 これにより死に難くなる。


「グォォオォォォオ!」


 魔獣の咆哮をまともに受けるガイ。勇心撃を使う以上ガイは逃げることは許されない。


 だが、それを堪え剣戟が魔獣の首を捉える。ガイが左を確認するとフィアの魔法が炸裂し頭が吹き飛んだところだった。


「オラァアアァアアァアア!」


 気合一閃魔獣の右の首も飛び、結果重苦しい音を奏でながら魔獣が倒れた。


「はぁ、はぁ、やったぜ……」

「あうぅぅう、魔力がぁ」

「フィア! この魔力水を! ガイはほら生命の水!」


 セレナは瓶を二つ取り出しフィアに魔力回復用の水を手渡し、ガイには治療用の水を投げつけた。


「――チッ、どっちもネロの忘れ形見じゃねぇか」


 瓶をキャッチし、愚痴るように呟きながらも瓶を口につける。


「ネロは死んでないわよ!」

「ネロは死んでません!」


 するとフィアとセレナから抗議の声が上がった。ガイは、へっ、と吐き捨てるように発する。


「しかし、まぁなんだ。おいフィア。どうすんだよこれ」


 目的の魔獣を倒したものの、それ以外の問題が生じており、ガイがやれやれとフィアに聞いた形だ。


「どうするって何がよ?」

「フィア……思いっきり森が燃えてます」


 セレナが呆れたように呟く。フィアの爆魔法は強力だが制御が難しい。魔物と魔獣を倒すには役立ったが残り火で木々が燃え始めているのだ。


「ね、ねぇネロ。後始末をお願いしても」


 フィアがしまったといった顔を見せネロにお願いしようとしたが、そこにネロはいなかった。


「ネロはもういねぇっつてんだろうが! 俺らでどうにかする他ないんだよ!」

「あうぅぅ、そうだった」


 ガイに怒鳴られフィアが肩を落とした。


「とにかく燃えた木を切っていくぞ。たく、しかし何だって火で木が燃えるんだよ。水で消える意味もわかんねぇけどな」

「そういうものとしか言えないじゃない」

「でもフィアにはもっと気をつけて欲しいです。大体火関係の魔法は狭いところで使ったら息が出来なくなることだってあるんですからね」

「あん? そんなハズねぇだろうが。ダンジョンで散々爆破してるぞこいつは」

「理由はわかりませんがダンジョンは平気なのですよ」

「じゃあ何で狭い場所だと息が出来なくなるんだよ?」

「わかりませんが、風の精霊が火を嫌うからとかそんな理由らしいですよ」

「意味わからん」


 そんなことをボヤきながらもガイ達は火の後始末を付けていった。


 こんな時にネロがいればなぁ、などと思いながら――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る