第33話 視えた紋章
「エクレアにもこの紋章視えるの!」
「うん! 視えるバッチリ視えるよ!」
思わず僕はエクレアの手を取って飛び跳ねた。エクレアも一緒になってぴょんぴょんしてる。
「あ、ご、ごめん!」
それに気がついてパッと手を放しちゃった。ヤバい、自然嬉しくなって露骨に接触しちゃったよ! サンダースの形相が思い浮かぶ。
「何で謝るの? 嬉しいならもっと喜ぶべきだよ!」
エクレアがムキになった感じに声を張り上げた。この子は本当裏表がないなぁ。そこが凄く好感持てるよ。
「スイムもそう思うよねぇ?」
「スピィ~♪」
エクレアがスイムを抱きしめる。何か凄く埋もれてる……いやだからそういうとこだぞ僕!
「はは、でも紋章が視えたのはびっくりだね」
「うん。でもどうしてかな?」
エクレアが不思議そうに小首を傾げた。あぁ~確かに何か理由があるはず。
確か賢者の紋章は賢い人に視えるとかそんな言葉が頭を過ぎったんだけど……。
「もしかしたらさっきの雷と水の関係かも。エクレアがそれに気がついて僕の魔法で実際に効果を確かめたから――それで視えるようになったのかも」
「え? そうなの?」
「うん。恐らくそれでエクレアも水の理に触れた、とかかなぁ?」
中々断言は出来ないけどね。
「でも水が雷を通すなんて、あ――」
ふと思い出す。サンダースと試合した時のことを。
「どうしたのネロ? 顔青いよ?」
「いや、君のお父さんと試合した時、水の盾で攻撃を守ったんだけど一撃で消えちゃったんだ。今思えば水が雷を通すからで――」
水の盾が僕から離れていたからまだいいけど、もし僕と接触していたらと思うと、背筋が凍りつく思いがした。
これは僕も気をつけないといけないね。寧ろエクレアが仲間で良かったとも思えるよ。
「そういうことね。確かに私もネロを巻き込まないように気をつけないとね」
そういうことだよね。攻撃面では僕の水でエクレアの雷がパワーアップするわけでそこは大事なところだけどね。
「じゃあ、折角だからもっと連携を高めていこうよ!」
「うん――そうだね!」
「スピィ!」
そして僕たちはダンジョン攻略に専念した。二層を終え三層も攻略できた。それほど規模は大きくないし上手く行けば今日中に攻略出来るかも。
この間に魔物とも出くわしたけどエクレアと協力して倒した。牛系の魔物は肉が美味しいから途中で遅めの昼食を摂ったよ。
何個か宝箱も見つけた。中身は宝飾品や金貨だ。どれも換金用だね。
「いよいよ第四層だね。最初の攻略だし多分次の層でボス戦だよね」
ダンジョンの多くは五層区切りだ。だからエクレアも次に期待してるんだと思う。
ボスを倒せば更に良い宝にも期待できるしね。
「「「「グルルゥ――」」」」
流石に四層ともなると敵も手強くなってくる。今対峙してるのはコボルト。二本足で歩く犬の頭を持つ魔物だ。
ラットソルジャーみたいに武器や鎧を装備してるけど質はこっちの方がいい。盾も持っていて動きも良い。
「はぁああぁあああ!」
とはいえ流石エクレアは強い。コボルトが盾で防ごうとするけど鉄槌で殴られて盾が破壊された上、電撃を喰らってしまう。
前もって水を掛けておいたからダメージ大だ。
「水魔法・水ノ鉄槌!」
僕も負けじと魔法でコボルトに攻撃。こっちは水の槌でコボルトを叩き潰した。
「やったねネロ!」
「うん」
僕たちは手を上げて叩きあった。パンっと心地よい音が広がる。
「スピィ~♪」
「ありがとうスイム」
コボルトは銅貨や銀貨を所持していた。これらは今はそのままお金として使うことはない。金貨もそうだけど換金してしまうのが当たり前になってるね。
「スイムってば本当凄い。いい子いい子」
「スピッ!」
エクレアが愛でてあげている。スイムも嬉しそうでエクレアにもすっかり心を開いてるね。
「ここも結構歩き回ったね」
「うん。そろそろ五層に下りられると思うんだけど――」
「た、助けてくれーーーー!」
その時助けを呼ぶ声が聞こえてきた。これって誰か他の冒険者?
このぐらいの層なら例えばダンジョンで夜を明かした冒険者がいたとしてもおかしくはない。
悲鳴の聞こえた方に僕たちは向かった。ちょっとした広い空間に三人の冒険者がいた。
そして彼らが相対しているのは赤い毛をした熊。
「嘘、あれって魔獣レッドベア?」
その光景を見ながらエクレアが呟いた。魔獣、そんなのがこの迷宮に?
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