第20話 ギルドマスターの部屋へ
「本当にそんなのが冒険者にいるなんて恥ずかしい限りよ……」
僕の話を聞いたフルールは情けないような呆れたようなそんな顔で声を細めた。
「ごめんねネロくん。でも冒険者はそんな奴らばかりじゃない、というか本当そんなの極々一部だからね!」
「う、うん。それはわかってるよ」
「スピィ」
顔を近づけて失望しないでと言わんばかりにフルールが説明してくれた。それについては僕自身が冒険者だしよくわかってる。
「それにしてもあいつガイにあれだけやられたのに、よりによってネロくんを狙うなんてね」
「え? ガイがどうして?」
フルールの言葉に驚いた。ガイとあの男に何かあったのかな。
「あれ? 前に言わなかったかな? ルガはネロくんが追放されたことを聞きつけて、貴方を馬鹿にする発言しながらガイのパーティーに入れてくれって言い寄ってたのよ」
そうだったのか……あ、でも言われてみれば何かフルールが話してくれていたような。しまったちょっと考え事しててあの時はあまり聞いてなかった。
「ガイはそれを断ったんだけどね。そのときにネロくんを馬鹿にしたことに対して随分と憤慨していたのよ。それが意外だったんだけどね」
「え? ガイが?」
その話にもびっくりした。追放された僕についてそんな事を言うなんてね。
「とにかくマスターが連れて戻った以上、もうあいつらは冒険者としていえ、人として終わりよ」
「はは――」
ぷりぷりしながらフルールが言い放つ。人として終わりとはなかなか手厳しいね。
「さて、話は終わったしマスターに呼ばれてるのよね。その前にさっきの依頼分の報酬を渡しておくね。それとネロくんが倒したのは魔獣だったわ。かなり危険度の高い魔獣でね。アグラフレシアンというのだけど、これについて報奨金が出てるから魔石の買取分との合計で200万マリンになるわ」
「200万!?」
驚いた。元の依頼が50万マリンだからあのアグラフレシアンという魔獣だけで150万マリン分ということになる。
「それぐらい凶暴な魔獣だったってことね。討伐報酬は70万マリン、魔石の買取り分で80万マリンよ」
魔石の価値もかなり高かったということだね。
「これだけあれば暫く暮らしていくには問題ないよ」
「スピィ~♪」
スイムも何か嬉しそうだ。撫でてあげると更に喜んでくれた。フルールも一緒に撫でてくれていたね。
「さて報酬もカードに入金したしマスターの部屋まで案内するわね」
ギルドマスターの部屋……当然僕は初めて入ることになる。何かちょっと緊張してきた。
見た目もだけど怖そうな人だし……
「スピィ~?」
「う、うん。大丈夫だよ」
スイムが心配そうに顔を上げるような仕草を見せた。だから自分に言い聞かすように返事したよ。
「マスターの部屋は二階にあるからついてきてね」
フルールの後ろについて階段を上がる。ここから上がるのも実は初めてだったりする。
二階について廊下を少し歩いた先がギルドマスターの部屋だった。何かどっしりとした構えの扉で見てるだけで緊張する。
「マスター。ネロくんを連れてまいりました」
「入れ」
どことなく重たい声が中から聞こえてきた。入って正面に広い机が設置されていた。
そこには革製の椅子に腰を掛け、両肘を机に乗せ値踏みするように僕を見てくるギルドマスターの姿があった。
「ご苦労。お前は下がっていいぞ」
「――はい。それじゃあネロくんしっかりね」
ギルドマスターに言われ、僕に声を掛けた後フルールが退室した。ま、まさか二人っきりにされるなんてますます緊張してきたぞ。
「改めて俺がこのギルドのマスター。サンダース・トールだ。まぁ大体マスターと呼ばれることが多いがな」
そうなんだそれなら僕もそう呼ぶようにしよう。
「僕はネロといいます」
「ネロだけか?」
お返しに僕も名前を伝えるとサンダースが確認するように聞いてきた。
――前はアクシスという家名があったけど追放されてからそっちを名乗ることは許されてないからね。
だから下の名前だけということになってる。
「いえ。ネロだけです」
「――そうか。ま、どっちでもいいんだがな」
そう答えた後、サンダースの視線がスイムに向けられた。
「で、そのスライムはお前の何だ?」
「えっと、今の僕にとっては大事な友だちです」
「スピィ~♪」
僕が答えるとスイムが嬉しそうに頬ずりしてきたよ。
「――そうか。まぁ危険はなさそうだが冒険者として管理はしっかりしておけよ」
「勿論です」
そもそもスイムはとてもいい子だ。人を襲うようなスライムでもない。
「さて、雑談はここまでにして本題だが――お前どうやってあの魔獣アグラフレシアンを倒した?」
な、何か野獣のような瞳で聞かれたよ。どう、と言われれば水魔法でなんだけどね――
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