第314話

「もし君が最初から戦闘に参加していたら犠牲を出さずに特殊個体に勝てたのではないのか?」


「……だと思います」


「オ、オィ、ツトム、それは……」


 何か言い掛けたコーディスを手で制する。


「だったらなぜっ?!」


「あなた方は何を討伐するためにここに来たのですか?」


「ぐっ……、特殊個体……だ」


「二本角は自分が倒した個体より数段上の強さですよ?」


「くっ…………」


「何よそれ……、こっちはファーブルが死んでるのよっ!!」


 ファーブルというのは亡くなった剣士の名前みたいだ。


かたきは討ちました」


「こ、このっ!?」


 激昂しそうになる弓士の女性をドノヴァンが懸命に抑える。


「私達の実力が足りなかった点は素直に認めよう。

 ただし! 犠牲者が出たことに関しては強く抗議したい!!」


「こちらも救援して4人も救ったのに非難されるなんてどういうことなんだ? と問い詰めたいですね」


 必殺! 遺憾の意を表明する。

 ここでコーディスが割って入って来た。


「事前に君達(=チェイス)のほうからこちらの加勢を断った点は忘れないでくれよ。

 あと彼(=ツトム)の回復魔法は他言無用でお願いする。理由はわかるな?」


「わかっている。

 本部への報告以外では他言はしない」


「なら、まずは帰還すべきだと思うがどうするかね?」


 この討伐隊の指揮官は2等級パーティー『チェイス』のリーダーであるドノヴァンだ。

 もし彼が頑固な性格でさっきの戦闘に不満があるなら、このまま討伐続行の指示を出すことも可能だ。まさかそのようなことはしないとは思うが……




……


…………



 結局ドノヴァンは帰還を選択した。

 剣士を失い槍士が戦闘不能の状況では討伐の続行は不可能と判断したわけだ。

 思ったよりは冷静だった…………いや、パーティーメンバーの手前敢えて抗議してみせた、とかかな。


 コーディスと槍士を抱え、街道へと向かう残りの3人と別れてバルーカへと飛ぶ。

 男を抱えて飛ぶのは初めてだ。

 そりゃあ女性を抱えて飛ぶほうが嬉しい(飛行中は興奮しないとしても)が、こればかりは仕方ない。今後もこういう機会は増えていくだろう。



 一応槍士の状態を考慮して速度を抑え目に飛んで城内ギルドの前に降りた。


「ツトム、ギルドのほうで城内の飛行許可証を出そう。

 緊急措置として私の権限で発行できる」


 うわっ!? 許可証のことを忘れてたよ!

 収納から以前ナナイさんにもらった青い大きなカードを取り出して、


「許可証は既に持ってるんで大丈夫です」


「軍からもらったのか?

 それは飛ぶ前に出しておかないと意味ないぞ」


 そんなことはわかってるよ!

 家から城内に行く時はなるべく徒歩で行くようにしているが、たまに飛んでくると予め許可証を出しておくのをついつい忘れてしまう。


「……以後気を付けます……」


「そうしたほうがいい。

 それと戻って受付で依頼完了の手続きを済ませてたら3階の執務室に来てくれ」


「わかりました」


 再び飛び立とうとすると、


「き、君! 送ってくれてありがとう。

 身体を治してくれたことも」


「いえ、早くお休みになってください」


 槍士は本心から感謝してくれてる、そのように感じた。




 街道上空を東に向けて全速で飛び、待機してる3人と合流する。

 俺に抱えられるのを弓士の女性が嫌がりドノヴァンにたしなめられる一幕もあったが、2人を抱えて飛び立ち単独飛行する魔術士をあっという間に引き離した。


 バルーカの城壁を超えて城内ギルドの前に降りる。

 身体を結んでいたロープを解くと弓士がドサっと地面に座り込んだ。


「は、速過ぎでしょ……加減ってものを知らないのっ!?」


 女性にそうツンケンされるのも中々……


「確か……ツトムだったな。

 特殊個体と戦ったのはここのギルドから指示されたのか?」


「いえ、自分の判断です。

 ギルドからは戦闘には参加しなくていいと言われてましたので」


「そうか……わかった」


 2人は後続の魔術士を待つようで自分だけギルドの中へと入る。


「あっ!? ちょっと! 待ちなさいよっ!!」




……


…………



 城内ギルド1階の受付にて依頼の完了手続きを行い報酬を受け取った。


 所持金 →644万5300ルク

 帝国通貨 353万1500クルツ


 そして言われた通りに3階の執務室へ……




「ご苦労だったな。

 コーディスから既に報告を受けている。

 まずは君が倒したという特殊個体を見せてくれるか?」


 収納から黒オーガを床に寝かせる形で出してレドリッチに見せる。


「ふむ…………これが特殊個体か……

 通常のオーガよりかなり大きいな」


 レドリッチは黒オーガを詳しく観察している。


「念のために聞くが、この死体をギルドに売る気はあるかね?

 相応の値段で買い取るが?」


「売るつもりはないです」


 黒オーガを売るなんてもったいない!!


「そうか……今回の依頼において君が倒した魔物をギルドが何かする権限はない」


 ヤケにあっさりと引き下がったな。

 冒険者ギルドにとっては特殊個体を討ち取った功績を大々的に宣伝したいだろうに。

 特殊個体の死体があるとないのとでは宣伝効果や説得力が全然違ってくる。

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