第313話

 スキルでは魔力操作と敵感知のレベルが上がっている。

 だが、果たしてこの戦闘でレベルアップしたのかは不明だ。

 ゲームみたいに効果音でレベルアップを知らせる仕様ではないし、日常的に表示しているのは地図(強化型)スキルで、ステータスのほうはたまにしか見ないのでいつ変化があったのかはわからない。


 っと、ステータスのことはとりあえず置いておいて、負傷者を回復させないと。


 まずは割と近くに倒れているドノヴァンからだ。

 先ほどの戦闘を見る限り生死に関わるような危ない倒され方はしてないので、詳しく容体を見ることはせずに軽く回復魔法を掛ける。


「うっ……、ぐぐっ……」


 楽になったのか身体を動かそうとしている。

 他の回復を優先するため、次は位置的に近い槍士に向かう。


 トリアージ的なことをすべきなのだろうか?

 医療とは違って回復魔法はすぐ終わるので、こうやって近場から治すほうが効率は良いはず。

 MP不足で回復魔法の回数が制限されるとかでない限りはこの方法で問題ないだろう。

 あっ?! 最初に範囲回復する手もあったな。


 槍士はドノヴァンと同じく危ない倒され方はしてないと思ったが、近付いて見てみると、


「ヒュー……ヒュー……」


 とおかしな呼吸音をしてて意識不明だった。

 肺にダメージを受けていると推測して、胸周辺を重点的に回復魔法を施す。念のためにもう一度……


 槍士の呼吸音は落ち着いたが意識は戻らないままだ。

 回復魔法では失った血液や体力を戻すことはできない。

 ここにいてもこれ以上できることはないので最初に倒された魔術士のところへ向かう。


 その途中で黒オーガの貫手に貫かれた剣士を見るが、一目見ただけでダメな感じだ。

 ただ万が一ということがあるかもしれないので、丁寧に死亡確認をした。

 最後に合掌し、


 (南無阿弥陀仏……)


 と唱える。この世界の宗教観とは違うだろうがそこは見逃して欲しい。



 魔術士は激突した木がクッションの役割を果たしたのか、最初に黒オーガの飛び蹴りを防御した腕と、木に激突した背中以外に深刻なダメージはないみたいだ。意識もしっかりしている。

 腕と背中に回復魔法を施した。



 未だ起き上がれない槍士の周囲へと集まる。

 回復した魔術士が剣士の遺体を収納し、チェイスが倒したオークの収納作業をしている。


「動けそうか?」


 コーディスが槍士へと問いかける。

 動けそうにないなら飛行魔法で運ぶしか方法はないが……


「すぐには無理よっ!!」


 槍士のことを看護している弓士が応える。

 言葉遣いや仕草等から、どうやらこの弓士は女性みたいだ。男性の可能性を疑ってしまって申し訳なかった。

 もっとも女性らしさを消してるのはワザとだろう。

 この世界は地球の同年代と比較すれば女性の社会進出は進んでいるが、それでも女性であることを隠せれば余計なトラブルから身を守れるのは確かなことだ。まして冒険者として活動していくのであればなおさら……


「2刻(=約4時間)ほど休めば歩けるぐらいには……」


 槍士が答えるが、そばの地面にある大量の血液が気になる……

 さっき回復させた時にはあんな血はなかったし、槍士の身体にも外傷はなかったはず。

 吐血した? 治せてない傷が身体の内部にあるのか?


「失礼……」


 念のために3度目の回復魔法を施す。


「すまない。だが回復魔法では体力までは……」


 体力を戻そうと回復魔法を使ったと勘違いしてるようだ。説明するのもなんなのでそういうことにしておく。


「俺がおぶって行こう。そこまで移動速度は落ちないはずだ」


 ここからバルーカとメルクを繋ぐ街道まで通常の歩きで2時間と少し、今回は3時間弱と仮定してそこから馬車でバルーカまで……面倒だな。できればサクッと帰りたい。


「ドノヴァンさん、あの魔術士の方は飛行魔法は使えます?」


「もちろん使えるが……」


「2人抱えてバルーカまで飛べば短時間で帰れますよ」


 喜ぶべきことではないが、剣士が亡くなったことで魔術士2人による飛行魔法での撤退が可能になった。


「2人も抱えての長距離飛行なんて無理だろう」


「えっ?」


「ツトム、飛行魔法は人を……というより重たい物を持って飛ぶのは、消費魔力が増えるので長距離を飛べなくなるんだ。

 飛行魔法を扱う魔術士なら知ってるはずなんだが……」


 あぁ、これは魔術士としての常識をスキルのせいで俺が認識できてないパターンだ。

 MP回復強化Lv8とMP消費軽減Lv8のせいで(おかげで?)、人を2人抱えながらでも俺はどこまでも飛んで行ける。


 しかし飛行魔法を教えてもらったネル先生はそんなことは一言も…………どうだったっけ?

 でもこれで自分以外には人を抱えて飛んでる魔術士を見かけないのも納得がいく。

 ルルカやディアはもちろんとして、ロザリナ達が疑問に思わなかったのはパーティーに魔術士がいなかったからか。

 今後は人目を避けて飛ぶべきか? もっとも仮に見られたとしても、それだけではこちらがどれ程の距離を飛んでるのかまではわからないのだから、あまり気にする必要はないのかもしれない。



 ここで収納作業を終えた魔術士がこちらに来た。

 黒オーガの出現でこの集落の半数以上のオークが逃げているので、魔術士の収納容量を超えることはなく俺の収納の出番はなくなった。


 魔術士に2人抱えてバルーカまで飛べるか聞いたが、


「む、無理ですよ! 魔力も半分ぐらいですし……」


 先ほどコーディスも使った"魔力"とはMPのことだ。

 MPはステータス上で正確な数値を知ることができるが、この世界の魔術士と同じように感覚でおおよその使用量や残量を把握することも可能だ。

 そしてステータスで表記されているほうの"魔力"は魔法の威力に影響する項目になる。ひょっとしたら土魔法による構造物の持続期間にも影響してるかもしれないと推察している。

 こちらの魔力という項目はこの世界の人は把握してないが、魔術士によって同じ魔法でも威力が違うことは普通のこととして受け止められている。


「なら北にある街道までならどうでしょう? 馬車から降りたあの道のことです」


「それぐらいの距離ならなんとか……」


「では自分がコーディスさんと槍の方をバルーカまで運びますので、ドノヴァンさんと弓士さんを街道へお願いします。

 お2人は自分がバルーカから街道まで戻って街へと運ぶ、ということでどうです?」


「うむ! その方法で帰ろう」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ドノヴァンが待ったを掛けた。

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