エピローグ

 映画館から出ると辺りはうっすらと夕焼けになっていた。


「……」

「……」


 帰り道を互いに無言で歩く。


 気まずい……今回は俺のせいだが……。


「あのさっ」

「う、え……!?」


 なんて考えていると、依子から話しかけられ、声が上擦る。


 大丈夫だ、俺……。別にさっきのことを聞かれるわけでは……


「さっきいきなり手を握ってきたり、耳舐めしたり、キスしたりしたのは……なんで?」


 やはり聞かれてしまった!!!!


 俺があからさまに動揺しているのに気づいたのか、依子が、


「あ、そのさ、別に怒ってなんかないから。……いや、やっぱ怒ってる。あんなことしてるって他の客に気づかれたらどうすんの」

「す、すいません……」


 途中、依子が煽ってきたからますますヒートアップしたなんて……言えないよな。言ったら絶対赤面して怒るのが目に見えてる。


「ま、まぁ? アタシだから許してあげれるけど。てか、アタシが透矢にされて嫌なことなんてないし……」


 本人はボソッと言ったつもりだろう。

 俺はしっかり聞き取れていたが。


 全く……また無自覚に煽りやがって……。


「で? なんであんな事したの?」

「……言わないとだめ?」

「だめ」


 言うまで逃がさないといった態度だ。

 仕方ない……か。


「アイツらにムカついたから……」

「え?」


 子供っぽい理由だと自分でも思う。


「アイツらって、ナンパしてきた2人組?」

「あ、ああ……」

「つまり、アタシに嫉妬してくれたってこと?」


 ズバリと言い当てられ、頷くことしかできなかった。


「……やっぱり怒ってる?」

「なんで。逆に……嬉しい」

「嬉しい?」

「だってナンパされてるアタシに、彼女が他の男に言い寄られて嫉妬したんでしょ? ……そんなの、嬉しいよ」

「………っ」

    

 頬を赤らめ、微笑む依子にドキッとする。


 あっ、そういえば……。


「依子ってナンパ系はいつもすぐ断っているだろ? なんでさっきはすぐ断らなかったんだよ」

 

 俺の嫉妬が加速した要因の一つでもある。


「へ? えーと、それは……」

「何か言えない理由のか?」


 急におどおどし始めた。


「……絶対笑わない?」

「笑わないけど」


 逆に笑う理由になるのか?

 すると、依子がおずおずと話し始めた。


「と、透矢がさ、どんな風にアタシを助けてくれるのかなーと……」

「ほう?」


 俺がどんな風に助ける?


「もしや、俺がかっこよく助けてくれるのを待っていた、と」

「かっこよくって自分でいうか! ま、まぁ……そうだけど……」


 つまりわざとナンパを断らなかった。俺は勘違いして、1人で暴走してしまい……。


「はぁぁぁぁぁ………!」


 思わず盛大なため息を漏らす。


「え、あ、ごめん……」

「いや、怒ってねぇよ。なんか……気が抜けた」


 ホッとしたい近い。アイツらに少しでも気があって断らないって理由じゃなくて良かった。


「ねぇ透矢」

「ん?」

「嫉妬してくれたってことはさ、アタシのこと好きなんだよなぁ〜」


 依子が笑いながら問いかけてくる。

 瞳はどこか不安げだ。


 恋人になったのは、伎織が背中を押してくれたおかげ。

 思い返せば、俺はハッキリと依子に好きと言った覚えがない。

 気持ちが曖昧だった。 

 決心がつかなかった。


 でも今、答えはハッキリと出ている。


「ああ、好きだけど」

「っ!」


 照れ臭くなって少しぶっきらぼうな言い方になる。


「透矢……ほんと?」


 依子の声が震えている。

 俺はもう一度向き合い言う。


「俺は依子が好きだ。友達としてではなく、1人の異性として。だからこれからも俺を彼氏にしてください」


 頭を下げようとしたその前に、依子が飛びついてきた。


「透矢っ!」

「おっと」


 抱きしめ、どちらともなく無言で見つめ合い……唇をくっつけた。


「ぷはぁ……ん、こっちのキスがいいや」


 依子の頬は赤く染まり、瞳は熱を持ったように潤んでいる。


「っ、ばっか……」

「へ?」

「……頼むから無自覚に煽らないでくれ」

「煽る?」


 なんでこういう時だけ鈍感のだろうか。


 さすがにこんなところで始めるわけにはいかないので、今度は理性をちゃんと落ち着かせ、また歩き出す。


 ぎこちなかった恋人繋ぎは、今ではお互いを求めるように、離さないようにギュッと繋げた。



◆◇

 

 ――1年半後。


 俺と依子は卒業の日を迎えた。

 午前中で卒業式が終わりクラス会も終えた俺たちがいるのは——


「ん、お茶」

「ありがとう」


 依子の部屋である。いつもみたいに、ダラダラした放課後。


 そう。いつも通りの……


「よっと」

「んお」


 あぐらをかいている俺の上に当然のように依子が座ってきた。


 依子の頬をムニムニとつまんでやりながら、尋ねてみる。


「隣の席空いてますけどー」

「こっちの方が彼氏さんは嬉しいくせに」

「まぁ依子を堪能できるからな」

「きゃー、ヘンターイ」


 棒読みで言う依子。

 すると、お返しとばかりに俺の頬をつまんできた。お互いの頬をムニムニとつまみ、視線を合わせる。


「卒業したってのに、いつものゆったりとした感じなのね」

「これがアタシたちでしょ」

「まぁそうだな」


 なんて言っていると、依子の瞳が何かを期待するように潤んだ。


「ん? どした?」


 察したがあえてとぼけてみる。


「アタシたち卒業したじゃん」

「おう」

「ということは、この制服も今日で最後……。透矢と初めてシしちゃった日も制服で思い出があるのに」

「言い方よ」


 依子は俺から離れ、向き合う形になりながら、


「あれからもたくさんシてきたけど……もう卒業したんだよ? シたあとに妊娠してないか検査する必要もないし、ゴムも必要ない。アタシの部屋に来たってことは透矢も期待してたんでしょ」


 上目遣いで聞く依子の可愛さに思わず頭を撫でる。


「バレちゃいましたか。じゃあシますか」


 俺たちはベッドに移動する。


「ちなみに伎織ちゃんにはなんて言ってるの?」

「依子の家で昼飯食ってくる」

「食べられるのはアタシだって言うのにね」

「やかましいわ」


 なんて会話をしながら、手慣れたように依子がシャツのボタンを外し始めた。


 そして。


「今日ははじめてのゴム無しだけど……後悔しないでよね」

「ああ、もちろん」


 今日もまた、朝を迎えたら昨日よりも依子のことを好きになっているのだろう。


「透矢、好き……」

「俺も好きだよ、依子」

  

 これからも大好きな彼女と、共に幸せな日々を送っていきたい。

 

 そんな想いを込め、キスをした。



              —完—

  


【あとがき】


これで完結となります!

(物足りないって方がいたら申し訳ありません💦)


まだ星を入れてない方がいらっしゃいましたらよろしくお願いします〜〜m(__)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】女友達と3回もシてしまったのなら 悠/陽波ゆうい @yuberu123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ