互いの課題

「っと――待ち合わせは駅前の噴水広場……」


 メッセージでやり取りした待ち合わせ場所と目印を確認する。


 依子とデート。

 遊びに行くがデートに変わっただけなのに……この緊張感の違い……。


 これも親友から彼女に変わったからだろう。実感はないが緊張はしている。


 ワックスで髪を整え、新調した服を着て気合いは十分。あとは依子と一緒に過ごすだけ……それが一番緊張だけど!


「依子の格好は……今日はツーサイドアップにしてる、かぁ……」

 

 メッセージを見て探す。それらしい人物はすぐに見つかった。


 噴水の近くでそわそわと周囲を見回している女の子。

 

 黒髪をツーサイドアップ。間違いない。

 俺は依子の肩に触れ、話しかける。


「い、依子。待たせたなっ」


 緊張で声が弾む。


 「ん」という返事と共に、依子は振り向く。

 

 揺れる黒髪の隙間から現れたのは――美少女だった。


 大きな瞳に長いまつげ。白くきめ細やかな肌にはシミひとつない。身長は俺よりも低いから上目遣いになる。


 メイクをしているのだろう。普段も可愛いが……今はもっと——


 胸が自然と早鐘を打ち、緊張に身がこわばる。


「じゃ、じゃあ行くか」

「うん、うん……。あ、ん」

「え? なに?」


 手を差し出してきた。お金だろうか?


「お金なわけないでしょ。手を繋げって伎織ちゃんに言われてる」

「ああ、そうだったな……」


 差し出された手を握る。

 そして指を入れ込ませ恋人繋ぎ。


「……」

「……」


 互いに気恥ずかしさで無言になる。

 普段しないことがここまでドキドキするものなんて……。


 それと伎織からは課題も出された。恐らく依子は内緒。



『兄さんは依子さんをください』



『依子さんは兄さんをください』


(ほ、惚れさせててって、好きって言われたからもう惚れてるんじゃないっすか!! え、えーーーっ!??)


(嫉妬ってどうやればしてもらえるの! 透矢鈍感なのにっ)

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