ずっこばっこシたんですよね?3回も(略:自信を持ってください)
——そしてデート当日
カシャ、カシャカシャ
……ん?
「これだけあれば十分ですかね」
「……んん」
「あ、兄さんやっと起きました?」
「んぁ? ……あー……」
……しおの……声? あれ、まだアラームは鳴ってないはずなのが……。
とりあえず目が覚めてしまったので、起き上がる。
「おはようございます兄さん」
「ふぁ、おはようしお……って、何してるんだお前……」
「兄さんの写真撮っていました」
「なるほど……」
目が覚める前に聞こえたような機械的な音はシャッターの音だったのね。
なるほどで済んでしまうほど、伎織がなにかと写真を撮るのは日常茶飯事なのだ。
顔を洗い、歯を磨き朝ご飯を食べ……時刻は9時を過ぎた。集合時間は9時40分。そろそろ家を出ないとな。
「兄さんその服ダサいです。やり直し」
「えー……」
まぁ伎織に3回目のコーデやり直しを指示されてるけど。
「全身黒なんて有り得ません」
「いやいや! 男の服なんて大体こんなもんだぞ!!」
コーデが黒色一色になるのは男子高校生というか、男あるあるだよな!
「まったく兄さんはファッションもクソ雑魚さんだったなんて……」
だからもう悪口っ!!
「でも俺、これ以外持ってないぞ……?」
「仕方ないですね。こんなこともあろうかと私が兄さんに似合う一丁羅を買っておきました。これに着替えてきてください」
「最初から出してくれませんかね……?」
伎織から一丁羅を受け取り、もう一度着替えようとした時、
「それと」
「ん? はむぅ!?」
突然伎織に、両手で頬をぐいっと内側に押し込まれた。むにゅと肉が内側に集結し、口がタコみたいになっている気がする。
「し、お?」
「兄さんは確かに恋愛クソ雑魚さんです」
……また悪口?
「でも…… 依子を一番笑顔にできるのは兄さんです。
なんか文字並びがおかしいと感じたのは俺だけ?
言い終わると離された。
「恋で悩めるうちが贅沢ですよ。……恋したくてできない子だっているんですから」
その言葉に妙に重みを感じた。
「時間大丈夫ですか?」
「え……やべぇ! 着替えてくるわ」
「はい、いってらっしゃい」
——2日前
「依子さんこんばん。突然電話してすいません」
家に来た時、連絡を交換した伎織と依子。透矢がお風呂に入っている間に電話を掛けたのだ。
「全然大丈夫だよ。それで何かな伎織ちゃん?」
「ちなみに兄さんとは何回シたんですか?」
「!?」
直球すぎる質問に驚きが隠しきれない依子。
そんななど分かりきっているものの、伎織はズバズバいく。
「あ、隠していてもいずれバレることなので今話した方がお得かも」
「3です……」
「わぁお3回も。それってシた日数ですか、それとも兄さんが出した回数ですか?」
「出した方……」
依子は恥ずかし過ぎて顔をこれでもかと赤く染めている。
「ちなみに……付けてました?」
「そ、それな当たり前だよっ!」
「あー、ゴムはしちゃったのですか。残念です」
「い、伎織ちゃん!? その、さっきからそっち系の話……もしかして、揶揄うために電話した……?」
「そんな訳ありません。本題はここからです」
「こ、ここからなんだ……」
疲れた様子の依子。はは、と苦笑い。
伎織はこほんっと咳をして声を整え、
「依子さんは兄さんのこと……本当に好きで間違いないですよね」
「も、もちろん」
依子は即答。
先ほどまで息もかぬほどの会話の連打だったものの、この質問の後は数秒の間が空いた。
「しお……ちゃん?」
依子は恐る恐る声を掛ける。
「はい。兄さんの可愛い妹の伎織ちゃんですよ。うちの兄は恋愛クソ雑魚なので堕とすのは大変だと思いますが頑張ってください」
「う、うん……。それはさ、ずっと隣で見てきて分かりきっていることだよ。むしろ覚悟してたっていうか……。でもアタシね……アタシが透矢を襲ったの」
依子は申し訳なを感じていた。
結局は了承してシてしてしまったものの、襲ったのは自分から。
伎織は兄の透矢に懐いている。そんな兄を襲ってしまったことに不快感を感じているのではないかと感じていた。
「別にいいじゃないですか、それでも」
「え……」
伎織は続ける。
「好きが抑えられなかったから行動したんですから。もっとも兄さんのあまりの鈍感さに苛立ったと言った方が正しいと思いますが。心が染まってないなら身体から侵食すればいい……お前だけ好きって、言ってくれるまで。それとも、依子さんは他の女の子に兄さんを奪われてもいいのですか?」
「それは……嫌……」
透矢が他の女の子に話しかけられた嫉妬してしまっている。もしも他に恋人ができたなどと言われたらどうなるか分からないだろう。
「じゃあ兄さんとシてしまったのは決して間違いなんかありません。間違いなら兄さんの方が絶縁されてしまってます。頑張ってください依子さん。私が貴方の妹になれるように♪」
「うん……ありがとう伎織ちゃん。アタシ頑張るよ」
「はい、これどう!!」
などと、思い出していると着替えて終わった透矢がリビングへやってきた。
「はい。格好良いですよ。時間もないですし早く言ってください」
透矢はバタバタと玄関へ向かう。
「あ! 伎織!」
「忘れ物ですか? 全く……」
「あー、違う違う」
透矢は家に上がることもなく、そのまま伎織の方を見て、
「ありがとうな! 背中を押してくれて! お前は俺の自慢の妹だよ!」
眩しいくらいの笑顔でそう告げ、家を出た。
「あー、全くずるいな……あの人は」
兄を見送った後、伎織が小さく呟く。
「こんなんだから私って2人をくっつけるのに強引になってしまうかもしれません。……バイバイ私の初恋。そして……幸せになってください兄さん、依子さん」
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